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ソーシャルワーカー養成から「生活保護」が消える

水面下の精神保健福祉士養成課程改革に隠されたシナリオ

みわよしこ フリーランスライター

「活動に参加する学習」の意味するものは?

 今回の改定に関する検討は、厚労省が設置した「精神保健福祉士の養成の在り方等に関する検討会」で行われた。この検討会は、2019年3月の中間報告書において、「『(知識の)獲得としての学習』から『(活動への)参加としての学習』へのパラダイムシフト」を重要視する方針と、実践を重視する方向性を示した。具体的な内容としては、必要な知識の獲得に加えて「現場ですぐに必要となる一般的な技能や相談援助の技術(電話相談、面接体験、記録の書き方など)」「コミュニケーション能力」「対人スキル」が身につくものであるという。

 また、現場で実務に就いている精神保健福祉士が養成機関の講師となったり、当事者活動をする精神障害者らの話を学生が聴いたりする機会を設けることも推奨されている。

 筆者はどうしても、近年の大学改革で声高く叫ばれている「実学重視」や「実務家教員」の導入と共通する地殻変動を感じる。また、故・三浦朱門の「できんやつはできんままで結構、浅学非才の輩はせめて実直な精神を養ってもらう」という発言も連想してしまう。そもそも、高校を卒業して大学に進学し、大学教育の一部として「一般的な技能」「相談援助の技術」「コミュニケーション能力」「対人スキル」を身につけた新人精神保健福祉士に、どのような能力やスキルを期待できるだろうか。筆者の不安は、さらに大きくなる。

「精神保健福祉士」の役割と立ち位置とは?

拡大精神障害者を「座敷牢」に入れていた1910年代の私宅監置の様子。若い男性が数年来、格子付きの一室に閉じ込められていた=映画「夜明け前」から

 社会福祉士と精神保健福祉士は、いずれもソーシャルワークに関わる資格であるが、日本においては、異なる法律のもとで異なる位置づけが行われている。

 社会福祉士は、1987年に公布された「社会福祉士及び介護福祉士法」に基づく資格であり、目的は、障害を持つ人々に対する援助とされている。資格取得者の職場の中心は、社会福祉施設など障害を持つ人々に対する直接支援を行う場である。

 精神保健福祉士は、1997年に公布された「精神保健福祉士法」に基づく資格であり、目的は「精神保健の向上及び精神障害者の福祉の増進に寄与すること」である。また業務内容は、社会復帰のための「助言、指導、日常生活への適応のために必要な訓練その他の援助」と規定されている。語弊を恐れずに言えば、「精神保健の向上」のついでに「精神障害者の福祉の増進」が実現される。現在は社会の中にいない精神障害者を社会に「復帰」させるためには、社会に「適応」できるように「訓練」する必要がある。要請される職務の性格上、資格取得者の職場は、精神科を中心とする医療機関や行政機関が中心となる。

 精神保健福祉士法の「上から目線」風味の根源は、精神障害者の「座敷牢」への閉じ込めを認めた1900年の精神病者監護法から現行の精神保健福祉法(1995年施行)に至る、日本の精神保健福祉にある。現在、「座敷牢」は認められていないが、精神保健福祉法は強制入院の法的根拠となっている。目的は、一貫して「社会防衛」だ。この枠組のもとで、1995年に制度化された精神保健福祉士資格の目的が「社会防衛」となることは、いわば必然である。これは、本人のための福祉を基本とする社会福祉士と、根本的に異なる点である。

日本の「精神科長期入院」という課題

 1997年に精神保健福祉士制度が発足した背景の一つは、当時、約34万人に達していた精神科入院患者を地域に移行させる必要性であった。

 日本の突出した精神科入院患者数は、1960年代以来、重大な人権侵害として、国内外からの批判にさらされ続けてきている。精神科入院患者は少しずつ減少しているが、2017年もなお約28万人であり、全世界の精神科入院患者の約20%が日本に集中していることになる。

 精神科入院患者の地域移行が進まない理由として挙げられるのは、「地域の理解が進まない」「地域に〝受け皿〟がない」ということである。障害者グループホームの建設が地域の激しい反対に遭う事例は、現在も多い。一般賃貸住宅への入居となると、さらにハードルが高くなる。

 しかし、今回の精神保健福祉士養成課程の改定に危機感を抱くベテラン精神保健福祉士のNさんによれば、精神科入院患者の退院促進と地域移行を阻む最大の要因は、地域の無理解ではなく、

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筆者

みわよしこ

みわよしこ(みわ・よしこ) フリーランスライター

1963年福岡市生まれ。大学院修士課程(物理)修了後、半導体シミュレーションの企業内研究者を経て、2000年に著述業へ転身。ドキュメントエンジニアリング・広告・取材記事などを幅広くこなしてきた。高校3年で「理転」するまでは音楽系。機器設計への関心から美術短大デザイン科を卒業した経歴も持つ。 現在は、もともとのバックグラウンドである科学・技術に加え、ジェンダー・貧困・福祉・社会保障・公共政策・教育などに幅広く関心を向けて執筆活動を行いつつ、大学院博士課程で社会保障政策決定の政治を研究。時に、科学コミュニケーションイベントの企画・実施も行う。 主な著書は『生活保護リアル』(日本評論社、2013年)。共著に『いちばんやさしいアルゴリズムの本』(技術評論社、2013年)、『おしゃべりなコンピュータ 音声合成技術の現在と未来』(丸善出版、2015年)など。調査報道記者編集者協会(IRE)・日本科学技術ジャーナリスト会議などに所属。 電動車椅子を利用する中途障害者。無類の愛猫家でもある。

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