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「子どもの声が低くなっている」は本当か

同じ学校の継続調査はほぼなし、「潜在能力を引き出せていないだけ」という指摘も

川本裕司 朝日新聞社会部記者

拡大「子どもの声が低くなっている」という指摘があるが……=2003年、東京都板橋区の東京家政大学付属幼稚園

 「子どもの声が低くなっている」と大阪市内のある幼稚園長から聞いた。最近では、高い音域のある曲を歌えなくなっている、という。人数が減った子どもが外で遊びながらあげる声が少なくなっているとは感じていたが、甲高い声も消えつつあるのだろうか。だとしたら、その理由とは。真相を調べることにした。

生活環境の変化で低音化?

 その名もずばり、『子どもの声が低くなる!』(ちくま新書)という本が、実は1999年に出されていた。著者は33年生まれの作曲家服部公一さんで、当時、東京家政大教授と同大付属幼稚園長を務めていた。

 服部さんの主張は40年以上前にさかのぼる。「幼児の声といえば高い軽やかな、文字通りかわいい声の代表だったが、このごろは幼児だてらに低音の魅力というのが耳につくのである。したがって、幼児の音域に合わせて作った、童謡の類は、その子どもたちにとってはなはだ歌唱困難ということになる」と、新聞のコラムに執筆したのは77年だった。

 低音化の原因として、生活環境の変化をあげた。昔の日本家屋はふすまや障子など音を吸い込むものばかりだったのに比べ、気密性の高いサッシとガラス窓に囲まれ反響のよい家に暮らしていれば、大声や高音と疎遠になる、と分析した。さらに、近年は低音が魅力の女性アナウンサーがテレビで活躍し、子どもに影響を与えている、と指摘した。

 2003年に出版された『日本人の声』(洋泉社新書y)の編著者である、日本音響研究所長だった鈴木松美さんは、子どもの声が低くなってきた、と述べている。7~9歳の子どもについて、「声は90年では273~296ヘルツだったのに対し、2000年では250ヘルツくらいと約20~30ヘルツ落ちている」とデータをあげて示した。子どもの平均身長がこの10年間で2~3センチ伸びており、体格の変化が声に影響を与えたという見方をしている。同様に女性の低音化が進んでいる、と指摘。母親のまねをする子どもが少しずつ低くなっていく連鎖的な反応がある、ととらえている。

 甲南女子大の坂井康子教授(音声教育学)は「最近、高い声が出にくいのか、1オクターブ下で歌う女子大生を見かけるようになった。声が低い女性お笑いタレントが活躍する姿をテレビで見て、かわいい声を出さなくてもいいという風潮があるのでは」と話す。また、98年に告示された小学校指導要領から、「頭声的発声で歌う」とされていた高く響かせる発声法が、「自然で無理のない歌い方」と変更されたことから、教える先生自体の声がごく自然になり、これが子どもにも影響しているという可能性はある、という。

 ただ、子どもの声が低くなったという指摘について、学会では「子どもに、ある音高の声を出してもらう方法が確立されていないので、時系列での比較はできていない」という見解がある。

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筆者

川本裕司

川本裕司(かわもと・ひろし) 朝日新聞社会部記者

朝日新聞社会部員。1959年生まれ。81年入社。学芸部、社会部などを経て、2006年から放送、通信、新聞などメディアを担当する編集委員などを経て、19年5月から大阪社会部。著書に『変容するNHK』『テレビが映し出した平成という時代』『ニューメディア「誤算」の構造』。

 

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