私が「親原発系メディア」に「分からないこと」を発信する理由
2020年01月25日
私は2011年の福島第一原子力発電所(原発)事故の後、福島県相馬市で診療を行う傍ら被災地の健康問題や復興につき発信して来た医師である。
私が福島県と関わるようになったのは、知人の紹介で相馬市の仮設住宅健診に参加したことがきっかけだ。この健診で驚いたのは、人々の口腔衛生状態だった。皆口の中が乾ききっていて、歯周炎や口臭が非常に多かったのだ。口腔衛生は精神的ストレス、血糖、飲酒や喫煙など色々な要因に影響を受けることを考えれば、口の中だけ見ても被災地の健康被害が放射能以外の様々な要因で起きていることが窺われた。
当時は世間で福島といえば「放射能が危険か否か」の議論ばかりがされていた頃だ。放射能以外の健康影響については、精神的ストレスと高齢者の運動不足が時折話題になる程度だったと記憶している。仮設住宅の生活習慣病、高齢者の孤立、医療崩壊、除染作業員の健康問題、外部労働者の大量流入による社会不安、失業や自殺…。健診に訪れた方々から聞く現在進行形の重大な社会問題・健康問題は、「放射能とがん」にかき消されているように見えた。
このままでは多くの健康被害が見捨てられてしまうのでは、という危機感を覚える一方で、そんな被災地でもしなやかに、したたかに暮らす人々たちが復興を実現していく姿にも感銘を受けた。色々な顔を持つ「福島」について学びたい、という気持ちの赴くまま、ご縁のあった相馬市に2013年から移り住んだ。「敵は放射能ではない」という発信に始まり、診療を続ける傍ら健康被害や復興の状況など、学んだ出来事を手当たり次第に発信して今に至る。
発信を始めた直後から私はネット上で「御用学者」と呼ばれ、たくさんの批判をいただくことになった。国から金をもらうでもなく「自分でも気づかず御用学者をやっている可哀そうな学者」という意味を込めて、「エア御用」と呼ぶ人もいた。「エア」であるだけに証拠を挙げて反論することが難しく、うまいネーミングだな、とむしろ感心したものである。
私が(エア)御用学者と言われる理由は主に二つあるだろう。一つは、「国立環境経済研究所」「原子力産業新聞」のコラムなど、世間で「体制側」「原発推進派」と見做され得る媒体に発信を行ったこと。もう一つは、原発の賛否や福島における放射能の影響等につき、「正解はない」というどっちつかずの発言しかしなかったことだ。
発信媒体で派閥を決められてしまう、というのは、私が相馬市に住むまで全く知らなかった世界であった(だからエア御用と言われるのだろう)。しかしそれを知った後でも、発信媒体を変えようと思ったことはない。それは主義の問題ではなく、
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