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君がん患者になるもがん情報難民になることなかれ

がんリテラシーを高めて「がん患者を食い物にするビジネス」から身を守る

村上和巳 フリージャーナリスト

高齢化日本の「がん大国」化は避けられない

 いまや日本では、著名人の訃報での死因をはじめとして、日常的に「がん」という言葉を聞くことは珍しいことではなくなっている。実際、1981年以降、がんは一貫して日本人の死因トップであり、数学的なモデルを用いると日本人は生涯に2人に1人ががんにかかるという試算も出ている。

 がんは主として長年の外的要因でヒトの遺伝子の不正常な変化が蓄積することで、不適切な細胞、すなわちがん細胞を作り出され、これが無限に増殖していく病気である。長期間の遺伝子変化の蓄積結果ということもあり、高齢になればなるほどかかりやすい病気という性格を持つ。その観点では先進国有数の高齢化が進行している日本は、不本意ながらも「がん大国」になるのは必定の運命だ。

拡大shutterstock.com

 もっとも医学界がこれを座視しているわけではない。約20年前、日本国内ではがんの治療薬として厚生労働省の承認取得を目指す新規物質の臨床試験は数十件程度にすぎなかったが、今ではその数は約340件にも上る。2018年にノーベル医学生理学賞を受賞した京都大学の本庶佑氏の研究を基に合成されたがん治療薬「オプジーボ」も、日本から登場している。

 このオプジーボは現在肺がんでも最も患者数が多い非小細胞肺がんをはじめとする7種類のがんの治療(保険適用)で使われている。非小細胞肺がんの場合、肺に発生したがんが他の臓器に転移してしまうと、診断から5年後に生存している患者割合を示す5年生存率が4%程度。しかし、このようなケースでオプジーボが有効な患者での5年生存率は16%と大きく上昇した。「その程度?」と思う人もいるかもしれないが、これまでのほぼ「無力」な状態から比べれば、光明が見え始めているのは確かだ。

 このような治療の進化は、乳がんや大腸がんなど他のがんでも起きている一方、一般人のがんに対する情報リテラシーはやや旧態依然の感がある。

 この一般人のがんに対する情報リテラシーを端的に表している場がある。現在書籍販売で大きな存在感を示しているAmazonでの、「ガン関連」というキーワードで表示される書籍の売れ筋ランキングだ。このキーワードでの上位50位にランクされる書籍を概観すると、最も多いカテゴリーは、「○○食でがんが消えた」といった類のがんと食事に関するもの。食事以外でも現時点で科学的立証が不十分な治療法に関する書籍や現行のがん治療を否定する書籍などがランキングには続々と登場する。

 だが、これら書籍を必死に読んでいるであろう、がん患者やその家族には残酷な物言いになってしまうが、これらの書籍は一度罹ったがんを「治す」ことには全く役には立たないと言っていい。

 そもそも前述のようにがんは長年の遺伝子変化の蓄積の結果であり、がんが見つかってから食事を変えるぐらいでは太刀打ちできるものではない。実際、これまで通常の手術や放射線治療、抗がん剤療法などをせずに、ある種の食品や食事様式でがんが治ったという科学的立証がある研究はないのが現実である。

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筆者

村上和巳

村上和巳(むらかみ・かずみ) フリージャーナリスト

1969年宮城県生まれ。医療、災害・防災、国際紛争を取材。週刊エコノミスト、講談社web現代ビジネス、毎日新聞「医療プレミア」、Forbes JAPAN、旬刊医薬経済、QLife、m3.comなど、一般誌・専門誌双方に執筆している。一般社団法人メディカルジャーナリズム勉強会調査報道チーム編集長、特定非営利活動法人日本医学ジャーナリスト協会幹事。著書に『化学兵器の全貌』(三修社)、 『二人に一人がガンになる』(マイナビ新書)など。