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新しい年のラグビー、W杯後に感じた可能性

浦和高校の洗練にしびれ、大学は早明決勝に目を見張る

西山良太郎 朝日新聞論説委員

W杯ロス埋める、高校生ラグビーの可能性

 宴のあとの寂寥感といえばいいのか。

 ラグビーワールドカップ(W杯)日本大会で初のベスト8進出を達成し、連日のようにテレビの情報番組やバラエティー番組に出演する日本代表の選手たちをみて、「努力が報われてよかった」と拍手を送る一方で「W杯ロス」を抱えた人も多かったはず。

 しかし、楕円球であいた心の風穴を埋めてくれるのは楕円球しかない。

 そう実感させてくれたのは、私の場合、年末年始に花園ラグビー場(大阪府東大阪市)で開催された全国高校ラグビー大会(12月27日~1月7日)だった。

 大会は、今回で99回目を迎えた。一昨年、一足先に100回に届いた高校野球の夏の甲子園とほぼ同じ長さを経てきた大会だ。1世紀という時間と歴史の重みを感じる。

 大会の前半で目を奪われたのは、6年ぶり3度目の出場を果たした埼玉の浦和だった。

 何よりグラウンドに広がる15人全員が戦略のイメージを共有し、流れるように動いていく。その一体感と集中力にしびれた。

ラグビー全国高校大会の初戦、浦和はフォワードとバックスが一体となった攻守を展開した(紺ジャージーが浦和)=2019年12月27日、花園ラグビー場

 1回戦は岡山の玉島に5―0で花園初勝利をあげた。相手に得点を許さずに押し切った試合には、緊張感がみなぎり、観る者にまばたきを許さないような張り詰めた空気があった。続く2回戦は青森山田に33―28。試合の流れを読み、相手の反撃をしのいで勝ち切った。

 浦和は公立では有数の進学校だ。その文武両道ぶりを少し掘り下げると、ラグビーで全国大会2勝の意義が見えてくる。

 例えば、部員は50人ほどいるが、ほとんどは高校入学後にラグビーを始めた選手ばかりだという。野球やサッカー、バスケットやバレーといった競技で全国大会に出てくるレベルではほとんど考えられないことだ。

 メンバーは身長170センチ台、体重も80キロ台が大半を占める。個人で相手を圧倒できるような大型選手はいない。

 もともと高校生は、年齢によって体の成長には差が大きく、ケガのリスクも他の競技に比べれば高い。公立校なので練習時間も決して長くはない。

 このような決して容易ではない環境でも、洗練された15人のチームプレーを練り上げることができる。高校生が持つ可能性と、その能力を引き出していく指導者の懐の深さを実感するチームだった。

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小柄でもモール攻撃、可能性広げる発想の転換

ラグビー全国高校大会の3回戦で桐蔭を相手に浦和(紺ジャージー)がみせたモール攻撃。約40メートルを押し切った=2020年1月1日、花園ラグビー場

 浦和は3回戦で神奈川の桐蔭学園に敗れた。優勝したチームに5―78は不名誉ではない。総合力では、勝敗をひっくり返すことは難しかったろうが、奪った5点には得点以上のインパクトがあった。

 後半10分すぎ、ラインアウトからモールをつくり、小柄な選手たちが幾重にも連なり、シード校の強力フォワードを揺さぶりながら押し切った。40メートルほどは進んだろうか。

 モール攻撃はかつて強者のプレーだった。巨漢選手たちが体格差にものをいわせて押し込んでいく。シンプルだが、問答無用の武器だった。

 しかし、考えてみれば小兵でもあっても、押す方向や、集団の組み方を突き詰めていけば、それは有効な武器になりうる。

 こうした発想の転換は、この大会の別の試合でもみることができた。

 スクラムやラインアウトといったプレーを再開する場面で、いつもはボールを配球する役割の小柄なスクラムハーフ(9番)が、スクラムやラインアウトの列に並び、逆に大柄なフォワードの選手が配球役のポジションにつく。相手の混乱を誘うだけでなく、さらにいつもとは違った新しい攻撃パターンを生んでいた。

 ラグビーには15のポジションがあり、それを入れ替えるだけでも選択肢は広がる。自由な発想がもたらす可能性を、そこにも感じることができた。

ラグビー全国高校大会の決勝、桐蔭学園(神奈川)―御所実(奈良)戦は高度なプレーの応酬となった=2020年1月7日、花園ラグビー場

ラグビー全国高校大会を制した桐蔭学園は伊藤主将を胴上げ=2020年1月7日、花園ラグビー場

大学選手権、早稲田が明治化・明治は早稲田化

ラグビー新しく完成した国立競技場で最初のラグビーの試合となった大学選手権決勝の早大ー明大戦は満員に近いファンがつめかけた=2020年1月11日、国立競技場

 続く全国大学選手権の決勝(1月11日)も、また印象的だった。

 伝統校である早稲田明治が決勝で対戦するのは23季ぶりのことだった。

 新しくできた国立競技場(東京)での決勝は、45―35とトライの奪いあいとなった。この試合をふりかえると、興味深いのはスタイルの変化である。

 かつて明治は強力フォワードを前面に押し出し、一直線に攻めていくスタイルを重んじたのに対し、早稲田はバックスを使い、サイドラインいっぱいに揺さぶりをかけていくのを得意とした。

 縦の明治と横の早稲田。そうした対照の妙で語られることが長く続いた。

 今回見えたのは「明治の早稲田化」と「早稲田の明治化」だ。

 早稲田のフォワードは立ち上がりこそスクラムで劣勢にたたされたが、ひるんだ印象はない。

 31―0とリードした前半で、三つ目のトライはラインアウトからモールで押し込んだ。後半の最終的にだめ押しとなったトライはスクラムからナンバー8がスクラムのすぐ横を大きく突破して快走、チャンスを作ったものだった。フォワードで勝負するこだわりが随所にみえた。

ラグビー全国大学選手権決勝、早大のナンバー8丸尾は明治の守りを振り切ってトライ=2020年1月11日、国立競技場

 これに対して明治は後半、積極的にバックスへ展開し、計5トライを奪った。個々のスピードとプレーの切れ味は早稲田を上回るものがあった。

ラグビー全国大学選手権決勝、明大はウイングの山村が快足をとばしてトライ=2020年1月11日、国立競技場

変わる戦法、スタイルは進化する

 伝統のスタイルを守り、継承しながらも、新しい味付けを加えていく。

 それは、進化を果たすためには必然の変化だと思う。

 W杯で感嘆したプレーの数々――例えば、相手のタックルを受けながらも片手でボールをつなぐ「オフロードパス」や、攻撃ラインに並んだ選手をまとめて跳び越してサイドライン際の選手に蹴ってつなぐ「キックパス」といった高度なプレーが、大学や高校でも日常的に使われていた。W杯の前から練習で取り組んでいたのだろうが、祭典で世界の一流選手たちによる鮮やかさと巧妙さを目の当たりにしたことで、日本の若い選手たちが自信をもって使っているように感じた。

 これもW杯効果といえるように思う。

 日本代表の選手たちも所属チームに戻り、今月からトップリーグが始まった。優勝した南アフリカやニュージーランドなど、W杯で活躍した他国の代表選手も少なくない。南半球を中心とした世界最高峰のリーグであるスーパーラグビーも今月下旬に開幕する。

 大丈夫。W杯でラグビーファンになったみなさんのお楽しみは、これからも続きます。

ラグビーW杯の日本代表主将として活躍した東芝のリーチマイケル(中央、赤のジャージー)は、トップリーグ開幕戦で、サントリーを相手にラインアウトでも活躍=2020年1月12日、秩父宮ラグビー場

ラグビーW杯日本代表のスクラムハーフとして活躍したサントリーの流(中央)は、トップリーグの東芝戦でも自在のパスワークをみせた=2020年1月12日、秩父宮ラグビー場

トークイベント「日本ラグビーの未来を語ろう」


公益社団法人日本ラグビーフットボール協会の理事で、TBS系日曜朝の「サンデーモーニング」コメンテーターとしてもおなじみの谷口真由美さん、元日本代表の小野澤宏時さん、本稿筆者の西山良太郎記者が、W杯後の日本ラグビーを語り合います。

 日時:2020年1月28日19時から
 会場:朝日新聞東京本社 読者ホール(東京都中央区5ー3ー2)
参加費:1500円(税込み)

   申し込みはこちら 1月27日午後3時締切