謎の国粋主義的日本観をきっぱり捨てるチャンスは今だ
2020年01月29日
去る1月26日に大相撲初場所が千秋楽を迎え、上位力士のほとんどが崩れる中で、先日急逝した伊東勝人氏(近畿大学相撲部監督)の魂に押されるかのように、先場所十両しかも幕内上位の経験すらない高齢力士の徳勝龍が涙の優勝を果たした。
大関貴景勝も出場最上位力士としての責任を果たし、関脇朝乃山の大関挑戦も見えたなど、若い力士の活躍も見て取れた。それはそれでよいだろう。
いみじくも千秋楽のNHKテレビにて解説者の北の富士勝昭氏が述べていたように、横綱白鵬が出れば優勝に必ずからみ、出なければ横綱鶴竜も含めて誰が優勝するかわからない、という状況が約3年続いている。覇者交代にすき間ができ、〝優勝する力量のある力士の不在状態〟は過去にも何度かあった。歴史的に見れば、それもそれでよいだろう。
その白鵬はまもなく35歳になる。スポーツ専門報道や横綱審議委員会も含めたゴシップ的取り扱いの情報を割愛してみれば、白鵬は横綱として、さらには過去の大横綱とも比較して、何ら遜色ない成績と土俵上の振る舞いのまま、ついに最後の現実的目標と思われる、東京オリンピック・パラリンピックへの何らかの参画(おそらく理想は1998年長野五輪の曙同様の、横綱土俵入り)、の目前まで来た。そのことを、現在の日本の報道を介した雰囲気としては、あまり歓迎しているふうに見えない。
白鵬の何が問題で、何が嫌いなのか。古い気質の日本人に、ここで問う。
横綱は「品格力量抜群」ゆえに昇進し地位の維持を許される。力量については誰も何も文句は言えない。もちろん全盛期の力はなく、最晩年の衰えた姿を見せており、怪我も多くなったが、それは誰でも通る道だ。優勝を争えなくなったら引退せねばならないという横綱の不文律どおりに白鵬もいずれ引退するだろう。
しかし現実にこの2年間を切り出しても12場所中皆勤した5場所で優勝3回(全勝2回)、それ以外の2場所も同じ横綱の鶴竜と終盤まで優勝を争ったものだ。そんな優秀な成績は、横綱大関含めて他に誰も残していない。ありとあらゆる史上1位の記録や、大相撲存亡の幾多の危機(震災、賭博、八百長・・・)をすべて乗り越えたオピニオンリーダーとしての功績、といった後押しなどまったく必要なく、2020年1月現在「出れば最強の力士」である。
横綱として進退を問われるような品格の持ち主なのか。力士以外の人を殴ったのか。銃刀法違反を不問にされたのか。休場中にサーフィンや野球見物をしたのか。相撲の最中に反則技を使っている(当然反則負け)のか。社会的に見て明らかに無礼な振る舞いなのか。それら全部問題ないとして、公的財団法人の特別待遇職員として日本文化の継承発展を怠ったり棄損したりしているのか。相撲道の根本たる相撲部屋での稽古の場にて、稽古量が足りなかったり後進の指導が足りなかったり体調管理や節制に欠けていたり準備運動が足りなかったり、しているのか。
横綱だけが別格の高い品格相撲内容を問われ、それが引退勧告の理由になるというのなら、過去・現在の横綱たちが、立派な相撲の技である張り手・かちあげ・絞り・閂(かんぬき)・泉川(いずみがわ)・のど輪・首投げ・首ひねりなどを使っていなかったのか。
白鵬が何人もの対戦相手を意図的に病院送りにでもしたのか。品のある相撲と品のない相撲の違いを誰か定義しているのか。とくに白鵬が晩年になって頻繁に用いる張り手とかちあげは、いずれも相手の突進を手で受け止めるがゆえにタイミングを間違えると体勢を崩し一気に押し込まれるリスキーな技術だ。大相撲史上最高と言うべき反射神経の良さを武器にする白鵬(とかつての朝青龍)だけがミスなく連発できる技だ。他の力士は品格十分だから使わないのではなく、確実に勝つためのテクニックとしてリスキーだから使わないのだ。
理想の横綱像を論じる際の実例として、明治末期の常陸山、昭和戦前の双葉山、を指す人が多いだろう。現代では貴乃花を
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