メインメニューをとばして、このページの本文エリアへ

news letter
RSS

医薬品、個人輸入パラダイス日本の闇

副作用重篤「新型コロナ薬」候補にも注文ページ

長野剛 朝日新聞社員

 経済は斜陽でも、暮らすならまだまだ世界で一番安全な国、日本! そう思いたいところですが、インターネットには他の先進国にはない荒涼も広がります。

 医薬品の個人輸入で、命にかかわる健康トラブルが後を絶ちません。個人輸入はネットの普及と共に広がったとみられますが、国内ではいまだに個人向けの輸入規制がほぼありません。本来は医師の処方箋が必要な薬ですら、ネット通販感覚で輸入できる手軽さです。たとえばある業者は、新型コロナウイルスの治療薬候補と報道されたHIV治療薬と同名の薬を、サイトに載せていました。価格は60錠1万円強。この薬は、国の医薬品承認審査を行う独立行政法人医薬品医療機器総合機構のサイトには、糖尿病や肝機能障害などの重篤な副作用が記されています。

 個人輸入をめぐるトラブルは従来、偽物のバイアグラの流通や危険なダイエット薬による死亡例など、いわゆる生活改善薬をめぐるものが注目されがちでした。しかし、最近の調査では、治療のために薬を個人輸入する人も珍しくないことが分かっています。無防備な薬の輸入環境は、普通に健康を望むだけの人々の健康まで侵食しているのです。

 にもかかわらず、昨年11月の薬機法(医薬品医療機器法=旧薬事法)改正でも、個人輸入をめぐるセーフティーネットの抜本的な改善はありませんでした。個人使用目的では実質上、日本は引き続き、世界でも珍しい「薬の輸入し放題」の国のままです。このままでよいとは思えません。

「個人輸入代行サービス」は、ほぼネット通販

 「危なかったかなぁ。警戒もしませんでしたけど」

 昨夏、ネットで抗生物質を購入した都内の50代介護職員の男性は、当惑した表情でそう、語りました。

拡大東京都内の介護職男性が昨夏、ネットで個人輸入した抗生物質。通院の時間がとれず、購入したという=男性提供

 その少し前、男性は蓄膿症が悪化して病院を訪ね、抗生物質を処方されました。服用すると息苦しさから解放され、ずいぶん呼吸が楽になったそうです。ただ、医師は「強い薬なので様子を見ながら」と、5日分しか処方してくれませんでした。

 男性は当時、転職したばかり。そう頻繁に、通院のためには休めません。

 「そこで薬の名前で検索したら、きちんとした雰囲気のサイトで売ってたんで、買っちゃったんですよ。薬局より高いけど、便利だし。でも、危ないのならもう、買うのをやめます」

 男性が言うように、男性が利用したサイトは確かに一見、普通の通販サイトのように見えます。取り扱う海外医薬品・サプリメントが「1700種類以上」とのうたい文句も伊達ではなく、普通は医師に処方されないと買えないインフルエンザ薬、タミフルや、「日本では販売されていない強力な効果のある成分を配合」したという皮膚炎の薬、エイズの検査キット、がん治療薬までが商品リストに並びます。

 サイトの説明文によれば、個人が輸入する際に必要な通関などの手続きを全て代行して行う個人輸入代行サービスなのだそうです。ネットを通じて注文すれば、通販と全く変わらない要領で、自宅まで医薬品が届きます。


筆者

長野剛

長野剛(ながの・つよし) 朝日新聞社員

1997年入社。対話、リテラシー、サステナビリティに関心。2018年春から、朝日新聞フォーラム面を中心に執筆。2010年、民間療法「ホメオパシー」を巡る一連の検証報道。2007年、アジアの水産事情を巡る連載「水産乱世」。その他、原子力、災害報道等。

※プロフィールは原則として、論座に最後に執筆した当時のものです

長野剛の記事

もっと見る