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原発の町・双葉町に生まれて

震災から9年 失いかけている記憶をたどる

半谷輝己 地域メディエータ

 福島第一原発事故からすでに9年の歳月が過ぎようとしている。そんな中、唯一全域避難が続いている私の故郷の双葉町も、今年の3月4日に避難指示が一部解除になるニュースが昨年の年の瀬に届いた。一部ではあるがやっと解除になったのだなという思いと、本当に良かったというニュースであった。

 けれども、私にはもう9年も経ってしまったのかと言う思いの方が先にあり、私自身の記憶の風化も強く感じてしまっているのが本音ではある。3.11が近づく度に失いかけている記憶をたどることも9回目となるのだ。

拡大双葉町の海岸。奥に福島第一原発が見える=2018年3月11日

なぜ人々は「冷静」だったのか

 2011年4月23日付けの朝日新聞記事の抜粋を以下に引く。

 東京電力の皷紀男(つづみ・のりお)副社長が22日、福島第一原発の周辺に住む約600人が避難している福島県田村市の市総合体育館を訪ね、住民に「心からおわびします」と謝罪した。事故を受け、同社役員が住民に直接謝ったのは初めて。

 皷副社長ら同社幹部に対し、住民たちは正座して「よろしくお願いします」「頑張ってください」などと声をかけるなど、冷静な対応が目立った。「まだ見通しがつかないの」と問いかけた農家の男性に、皷副社長は「全力を尽くします」と答えた。男性は「我々は1年間作物を作らないと困ってしまう。原発をつくる時、ある程度の地震には耐えられると言っていたはず。早く家に帰れるようお願いしたい」と静かに訴えた。

 体育館に避難していたのは、双葉町の隣町でやはり原発の立地する大熊町民だった。この記事から、当時もなぜこれほど大熊町の方々は冷静なのだろうと多くの方から質問を受けたことを記憶している。地域メディエータとして、私が原発事故や原発立地地域の疑問に答えるとき、幼少のころの私の経験から説明をはじめることがある。たぶん、そこからでなければ理解して貰えない疑問だからだ。

技師たちの集まった「外人村」

拡大1号炉完成間近の福島第一原発=1970年撮影

 昔、東北地方の中では比較的温暖で、のどかな田舎町の海岸に不思議な村が作られた。そこは大熊町と双葉町の間に位置し普通なら誰も近づかない防風林の奥であった。この村を知ったのは私が小学校3年生のころだったと記憶している。

 私はある日突然村一つが出現したと思っていた。変な村があるとの噂を聞きつけ友だち数名と村に侵入し、村人に遭遇した時はウルトラセブンに登場する宇宙人たちが住んでいる村だと本気でそう思ってしまった。住人は生まれて初めて肉眼で見る金髪に青い目の人々だもの。

 この敷地内は、まるで米軍基地のように道路標識などすべてが英語表記なのだ。よくこの不思議な村に遊びに行った。そこにあるものはすべてが新鮮で驚きだったからだ。小さな学校に小さなグラウンド。その周辺に当時の私ぐらいの男の子が30ccぐらいの小型のオートバイに乗って遊んでいた。少年の金髪が風になびき比較的野性児と思っていた自分が貧弱に思え、自慢の仮面ライダーを真似て手を加えた改造自転車はみすぼらしく見えてしまった。

 私のお気に入りの外人はオランダ人の技師で、何度もケーキやお茶をご馳走になった。生まれて初めて紅茶を飲んだ。紅茶の味を刷り込まれた瞬間でもあるからなのか、記憶が今でも鮮明に残っている。なお外人と言う表現は、当時とても一般的で主に白人を指していたように思う。田舎町の小学生に英語など分かる訳もなく、会話はすべてジェスチャーと笑顔のみ。笑い声の絶えないコミュニケーションだった。

 福島(当時は大熊)原子力発電所の1号機は通称GEと呼ばれる米国ゼネラル・エレクトリック社製である。建設に従事したのはアメリカ人技師を始め、オランダ人技師やドイツ人技師であったと伝え聞く。彼らと彼らの家族の生活の受け皿として、双葉町と大熊町の中間に通称外人村と言うGEの技師たちの居住区が出来たのだ。

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筆者

半谷輝己

半谷輝己(はんがい・てるみ) 地域メディエータ

1962年福島県双葉町生まれ。日本大学大学院生産工学研究科博士前期課程修了。福島第一原発事故後、地域メディエータおよび伊達市健康推進課放射能健康相談窓口相談員として、2012年度より勤務し福島の復興のために尽力。現在は環境アレルギーアドバイザーとしてアレルギー疾患者の会のアドバイザー、防災士として防災講座・避難所相談員育成講座を運営している。一般社団法人生活環境メディエーション協会副代表理事。BENTON.Inc代表取締役 校長。リスクコミュニケーション・ジャパン 代表。著書に『それで寿命は何秒縮む?』(すばる舎)、『ベントン先生のチョコボール』〈筆名・半井紅太郎〉(朝日新聞出版)がある。