2020年02月22日
ネット時代における書店の死と再生――代官山の蔦屋書店を訪ねて
ある日曜午後。まだ夕食には早い時間だったが、東京・銀座のカフェに続々と人が集まってきた。一見、貸し切りのパーティでも開かれるのかと思うが、受付を済ませた人は3つのテーブルに分かれて座り、おもむろにカバンから同じ新書を取り出す――。
そこで開かれていたのは「猫町倶楽部」の「フィロソフィア東京」と称する読書会だった。猫町倶楽部は発祥地である名古屋のほか東京や大阪などで年間200回の読書会を主催・運営し、のべ約9000人が参加する日本最大の読書会コミュニティだ。その日の課題本は大澤真幸『社会学史』(講談社現代新書)で、カフェに集まった30人ほどがテーブルごとに本を片手に感想を語り始めていた。
「最初からこうしたスタイルでやろうとしていたわけではないんですよ」
猫町倶楽部主催者の山本多津也が言う。リフォーム会社の跡継ぎだった山本は経営者になりたての頃、有名コンサルタントなどが話をする経営者セミナーに足繁く通っていた。だが「出かけていって偉い人の話を聞くだけで帰るだけなのはいかにも味気ない、勉強する意欲の高い人と話し合う場があるといいとだんだん思うようになった」。
で、どうするか。セミナーの講師になるような人であれば必ず著書がある。ならばセミナーに行くよりもメンバーで著書を一緒に読んでみたらどうか。そう考えて2006年の9月に最初の読書会を開催した。IT企業に勤めていた大学時代からの友人と、同じリフォーム業界で働く二人の計4人が集まった。課題本はビジネス書の王道中の王道であるカーネギー『人を動かす』だった。
2時間かけてじっくり本の感想を語り合うと高揚感と充実感が残った。自分の考えを客観視できたし、他の人の読み方に意外な発見もあった。そこで「アウトプット勉強会」と称して読書会の開催を毎月続けると、口コミで参加者が増え、半年後には平均10〜15人が集まるようになっていた。
「その頃、SNSがこれから重要になると言われていました。そこで当時活発だったミクシィを使ってみようかと思いつき、ほとんど意味がわからないまま読書会のコミュニティを立ち上げたら20代の若者がどんどんはいってきてびっくりした」
会員数は約2年で1000人を突破。中日新聞の夕刊に「若者熱く読書会」と記事で取り上げられたことも追い風となった。会員が増えたので「アウトプット勉強会」とは別に「文学サロン月曜会」という分科会も立ち上げた。2009年には読書会メンバーが東京に転勤になったのをきっかけに東京でも読書会を開催するようになった。
この頃になるとコミュニティは多様な参加者が集まる場になり、ビジネスや文学といったジャンルの垣根なしの読書会を展開してゆくにはそれにふさわしい名前が必要だと山本は思ったという。
そこで名古屋文学サロン月曜会で会場を借りていた「JAZZ喫茶青猫」と、山本が好きだった萩原朔太郎の小説『猫町』にちなんでコミュニティ全体の名称を「猫町倶楽部」とした。この新しい名前の下で映画の感想を語り合う「シネマテーブル」、大人の性愛をテーマとした「猫町アンダーグラウンド」、哲学書メインの「フィロソフィア」の分科会が生まれ、開催拠点も新たに大阪、金沢、福岡が加わった。今や月に15~16回、年間約200回、どこかで何かの会が開催されている。
それは読書会というリアルな対面のコミュニケーションの中でしか起きない化学反応なのだと山本は言う。
そんな話を聞いていろいろと得心がゆくことがあった。
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