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猛暑の中で開かれる「甲子園」をこのまま続けていいのか?

熱中症にどう対応するか?「甲子園」が変わると日本のスポーツへのメッセージになる

中小路徹 朝日新聞編集委員

昨夏の第101回全国高校野球選手権大会=2019年8月6日、兵庫県西宮市の阪神甲子園球場、朝日新聞社ヘリから、井手さゆり撮影

 今夏に予定される東京五輪のマラソンと競歩の開催地が、東京から札幌へと変更された。理由は「猛暑」だった。

 これは、毎年、猛暑の中で開かれる全国高校野球選手権大会(「夏の甲子園」)を、このまま続けていいのかという課題をいっそう突きつけていると思う。

 私は、スポーツ活動中の事故防止や部活動改革といったテーマを、競技を越えて横断的に取材してきている。その立場から、この問題を考察してみたい。

14日間の開会期間中「運動は原則中止」が9日間

 事前にご理解いただきたいのは、この論考では、私の務め先である大会主催者の朝日新聞社と、日本高校野球連盟への忖度(そんたく)は一切しない一方、内容は記者としての一意見であり、会社を代表するものではないということだ。

 では、まず夏の甲子園が行われている環境の整理から始めよう。

 日本スポーツ協会は熱中症防止の指針として、気温、湿度などから計算する総合的な暑さ指数(WBGT)が25度以上28度未満では、「激しい運動は30分おきに休息」の警戒レベル、28度以上31度未満は、「激しい運動や持久走は避ける」の厳重警戒レベル、31度以上では「特別の場合以外、運動は原則中止」としている。

 環境省の観測地で甲子園球場から最も近い大阪市の昨年8月のWBGTをみると、14日間の試合開催日のうち、「運動は原則中止」の31度以上は9日あった。残りの5日も、厳重警戒レベルに達していた。

 さて、どうするべきだろう。

抜本的な解決にならない時期・会場の変更

 代案として、「秋開催」をはじめとして、時期をずらす方法がよく挙げられる。しかし、私はこの代案では、抜本的な問題は解決されないと考えている。

 理由は、これで“救済される”のは、甲子園大会だけだからだ。

 学期内は授業に差し障りが出る、週末や祝日だけを使う日程を組むと移動費がかさむなど、付随する課題を差し置けば、秋開催は確かに熱中症の危険性を下げる。だが、地方大会開催と、それに向けた練習は、結局は夏に行うことになる。実際、選抜高校野球大会(「春の甲子園」)の選考対象となる公式戦が秋に開かれるが、それに向けた各校の練習は夏休みに行われている。

 では、現行の夏休み中の日程を維持し、甲子園から涼しい地域に会場を移して開くのはどうか。これは、高校生たちの「聖地」へのあこがれと折り合いがつけば、一案だと思う。ただ、この代案も、地方大会とそれに向けた練習をどうするかという問題の解決にはつながらない点では、時期をずらす案と同じである。

いかに夏に安全にスポーツ活動をするか

 実は、夏の活動が抱える課題は野球に限らない。

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