ホームレス状態の当事者121人への聞き取り調査から
2020年02月28日
私の関わっている複数の生活困窮者支援団体でも、予定していた催しの中止を相次ぎ決定した。また、路上生活者や生活保護利用者にマスクや予防を呼びかけるチラシを配布するなどの対策を講じている。
新型肺炎は、高齢者や持病のある人が罹患すると重症化しやすいと言われている。近年、路上生活者の平均年齢は60歳を超えており、70代、80代の高齢者が野宿をしている例も少なくない。生活保護世帯も、高齢者が世帯主となっている世帯が全体の約54%を占めている。両者とも慢性的な疾患を抱えている人の割合が高いという特徴もあり、新型肺炎に特に気をつけなければならない人たちが多い集団だと言えよう。
現在、私たちは医療関係者と連携をしながら、こうした社会的に脆弱な層への対策をどう進めていくか、検討を進めているところである。この問題については、機を改めて論じたいと思う。
本稿では、貧困と密接な関連のある別の疾患について考えてみたい。それは、ギャンブル依存症である。
ギャンブル依存症(ギャンブル障害)とは、ギャンブルにのめりこむことにより日常生活又は社会生活に支障が生じ、治療を必要とする状態になっていることを指す疾患名である。
2017年に厚生労働省が発表したギャンブル依存症に関する疫学調査(中間結果)では、生涯で依存症が疑われる状態になったことのある人は3.6%(全国約320万人)と推計されている。
2016年に成立した統合型リゾート(IR)整備推進法に基づき、政府は2020年代半ばにカジノを含むIRを国内最大3カ所で開設する方針を示している。IR推進法の成立にあたっては衆議院・参議院の両院にて「ギャンブル等依存症患者への対策を抜本的に強化すること」という趣旨の付帯決議が付され、2018年にはギャンブル等依存症対策基本法が施行された。
厚生労働省は今年4月からギャンブル依存症の治療にも公的医療保険を適用できるよう診療報酬を改定する予定で、対策に力を入れている。
私は長年の生活困窮者支援活動の中で、ギャンブル依存症によって貧困に陥ったと見られる人に数多く出会ってきた。
20年ほど前に関わった高齢の女性は、生活費や家賃に充てるべきお金をパチンコに使ってしまうため、友人や知人から毎月のように借金をするという行動を繰り返していた。最終的に人間関係が破綻をして、失踪。ホームレス状態になって発見される、ということも一度や二度ではなかった。
アパートから出て、路上生活をしている彼女を私が発見した時、彼女は自分ではパチンコの誘惑には勝てないと涙ながらに語り、「パチンコのない国に行きたい」とつぶやいていた。
約半世紀の間、パチンコ屋に通ってきたという元ホームレスの男性からは、若い頃、売血をして得たお金でパチンコをしていた、という話を聞いたことがある。
日本における売血制度は、貧困層が売血を頻繁に繰り返すことによって赤血球が回復せず、血液が黄色っぽくなる「黄色い血」問題が1960年代に社会問題となり、1974年には国内の全ての輸血用血液が献血由来のものに切り替わった。
しかし、後に薬害エイズ事件で知られることになるミドリ十字は、1990年まで血漿分画製剤用として有償による血液の採取を続けていたため、事実上の売血制度は続いていた。
この男性は、1980年代、東京都内の複数のミドリ十字の営業所を偽名で渡り歩き、売血をしてはパチンコ屋に行くということを繰り返していたという。
「当時は牛乳瓶くらいの量の血を1本4000円で買ってくれました。2本抜くとフラフラになるのですが、その状態でパチンコ屋に行き、お金がなくなったら、今度は別の営業所に行く。こっちでは田中さん、あっちでは鈴木さんと名前を変えて行くんです。体重は50㎏以上ないと血を抜いてくれないので、ズボンのポケットに石ころを入れてごまかす。そうやって得たお金で、パチンコやスロットをしていました。1日に4、5万使うこともありました」
ギャンブル依存症と貧困、特にホームレス問題との関連は、支援者の間では以前からよく知られていたが、それを裏付ける本格的な調査は実施されたことがなかった。この点に日本で初めて踏み込んだのは、認定NPO法人ビッグイシュー基金の研究グループが実施した聞き取り調査である。
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