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新型コロナウイルスとともに広がるニセ科学

引っかからないように要注意!

左巻健男 東京大学講師・元法政大学教授

 ニセ科学は、いつも虎視眈々と科学リテラシーの弱い人たちを狙っている。そして、社会的に不安が高まると、一気に跳梁跋扈する。現在、新型コロナウイルス感染が広がるなか、ニセ科学はこの機会に一挙に引っかかる人を増やそうと蠢いている。

社会的な不安に乗じてニセ科学が跳梁跋扈

拡大Shutterstock.com

 ニセ科学とは、科学ではないのに、「科学っぽい装いをしている」あるいは「科学のように見える」ので、科学リテラシーが弱いと、つい科学的なものと思い込んでしまうものだ。

 ニセ科学にはどんなものがあるだろうか。細かく見て行くといろいろあるが、大まかにいくつかを列挙してみよう。

がんが治る・ダイエットができるとするサプリメント・健康食品の多く、健康によいとする水、ホメオパシー、経皮毒、デトックス、血液サラサラ、身に着けると健康によいというゲルマニウムやチタン製品・トルマリン製品、ゲーム脳、「人間の脳は全体の10%しか使っていない」「右脳人間・左脳人間が存在する」などの神経神話、水からの伝言、マイナスイオン、EM菌、ナノ銀除染、フリーエネルギー、血液型性格判断、「知性ある何か」によって宇宙や生命を設計し創造したとするインテリジェント・デザイン説、アポロは月に行っていなかったとするアポロ陰謀論、人口減少させるために何者かが有毒化学物質をまいているとするケムトレイルなど。

 本論では、新型コロナウイルス関連のいくつかを見ていこう。

「コロナウイルスには26~27℃のお湯が効果がある」というデマ

 「武漢ウイルスは耐熱性がなく、26~27℃の温度で死ぬ。お湯を飲めば予防できます」という内容がチェーンメールやSNSなどで出回っている。

 内容に多少の違いはあるが、「医療関係の友達」や「自衛隊」、「友人の友人の友人」からのまた聞きとして、「お湯を飲めば予防できる」という点が共通していた (西日本新聞 2020.2.25「チェーンメールも…新型コロナのデマ拡散「お湯で予防」病院も困惑 」)。

 この情報を信じてか、歌舞伎役者の市川海老蔵さんはブログで、「新型コロナウイルスは熱に弱いため、お湯の飲用や運動、熱い風呂への入浴などが効果的だ」と勧めた(現在、削除されている)。

 私のツイッターではこの情報への批判が多く回ってきていたが、Facebookでは肯定的に引⽤紹介している⼈もいた。批判は「⼈の体温より低いから体内に⼊った段階で死滅するだろ︕」というもの。それを意識してか36〜37℃のお湯に替えたものも出回っている。それでも平常体温にはかなりの個⼈差があって36.1〜37.5℃で平均37℃付近だからお湯を飲まなくても体内で死滅のはずだ。

 さらに温度を上げて56~57℃のお湯というものも出回っているが、そのお湯が体内でウイルスにある程度の時間曝されるようにはならないので、お湯にさらされたウイルスの活性を一時的に低下させても死滅は無理。ウイルスが取りつく場所の気道にはお湯があたらないので、体温をお湯くらいに大きく上げればならないが、お湯を大量に飲んでも体温は簡単に上がらない。人の体温は精巧なシステムであまり変動しないようになっているからだ。

 体温には上限があり、44~45℃だ。これ以上になると代謝で働いている酵素などのタンパク質が非可逆的に変性し始め、急速に死に至る。つまり、ウイルスが死滅するまでの体温上昇ができるときにはその前に代謝の働きが終わってしまう、つまり死を迎えてしまうだろう。

 大量の水分摂取は水中毒の危険性があるし、高温のお湯の大量摂取は酵素の熱変性を起こして働きを止めてしまうからだ。出所不明(つまり根拠なし)のデマには近づかないことだ。そしてお湯を飲むことでウイルスを死滅させられるならば、現在の状態にはなっていないという常識的な考え方も必要だ。

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筆者

左巻健男

左巻健男(さまき・たけお) 東京大学講師・元法政大学教授

中高理科教諭から大学教授に転じて、理科教育を土台に科学啓蒙やニセ科学問題の指摘を行っている。『暮らしのなかのニセ科学』や『学校に入り込むニセ科学』(共に平凡社新書)などの著作や、編集長をしている大人の科学好きのための『RikaTan(理科の探検)』誌で、医師や研究者など専門家の仲間と代表的なニセ科学を扱ってきた。「左巻健男&理科の探検’s blog」 @samakikaku Facebook:左巻健男