メインメニューをとばして、このページの本文エリアへ

新型コロナウイルスをメディアは的確に報道しているか

確かに分量は多い。だが、読者や視聴者の疑問に十分に答えているかは疑問

徳山喜雄 ジャーナリスト、立正大学教授(ジャーナリズム論、写真論)

新型コロナウイルスによる肺炎の感染拡大への対応などについての記者会見に臨む安倍晋三首相(右端)=2020年2月29日、首相官邸

 新型コロナウイルスをめぐっての「朝令暮改」ともいえる政府の対応が、社会を混乱させている。だが、その一方で、新型コロナウイルス報道(以下、新型肺炎報道)を担うメディアは、その任を果たしているのだろうか。

不安な日々を過ごす国民

 政府は2月25日、前日の政府対策本部の専門家会議の見解を踏まえ、感染拡大防止をめざす基本方針を決定した。大勢が集まるイベントなどについては、全国一律の自粛要請はおこなわないとし、小中高校の臨時休校についても自治体に判断を委ねるとしていた。

 しかし、基本方針決定の翌日の26日、安倍晋三首相が一転して2週間のスポーツ・文化イベントの開催自粛を要請。さらに27日には、全国すべての小中高校、特別支援学校に3月2日から春休みまでの臨時休校を要請した。

 基本方針が猫の目のようにコロコロと変わって迷走することで、関係省庁や自治体、とりわけ現場の混乱は計り知れないものとなった。

 そもそも政府が国内初の感染者の確認を発表したのは1月16日。クルーズ船ダイヤモンド・プリンセス号が横浜沖に到着したのが2月3日。この1カ月半、政府の対応は腰が定まらず、新型コロナウイルスの感染はじわりと国内に拡大する。国民は不安な日々を過ごし、いまも右往左往している。

「一斉休校」の舞台裏を報じた朝日新聞

 「独断」「場当たり的」「後手後手」「説明不足」「肩透かし」……。

 ここにきて、こうした言葉が、ニュース番組のコメンテーターらの発言や新聞・雑誌の見出しで、乱れ飛ぶようになった。

 臨時休校の判断をめぐり、安倍首相と最側近である萩生田光一文部科学相との不協和音も聞こえてくる。

 全国一斉の休校という首相の意向を伝え聞いた萩生田氏は2月27日、首相の真意をただすために急きょ官邸に向かった。休校によって保護者が仕事を休まなければならない世帯への「休業補償はどうなるのか」と迫る萩生田氏に、首相の“腹心”である経済産業省出身の今井尚哉首相補佐官らは「大丈夫」と応じた。ただ、国民生活への影響が大きいだけに、萩生田氏は「補償の問題をクリア出来ないと春休みの前倒しは出来ない」と食い下がり、安倍首相が最終的に「こちらが責任を持つ」といい、その場を引き取ることとなった。

 それから約5時間後の新型コロナウイルス感染症対策本部の会合で、首相は一斉休校の要請に踏み切った。専門家会議にもかけず、反対意見を突っぱねるかたちの極めて短時間の決定で、政権の危機管理を担ってきた菅義偉官房長官も蚊帳の外だった。

 以上の首相官邸での出来事を、朝日新聞(2月29日朝刊)は生々しく報じている。朝日は近頃、舞台裏でのこうしたやりとりを書いておらず、目を引いた。誰がリークしたかは判然としないが、「朝日に情報は流すな」という箝口令(かんこうれい)にほころびがでてきたということか。

閣議後、取材に応じる萩生田光一文科相=2020年3月3日、国会内

各紙の記事から漂う政権末期の気配

 東京新聞は、首相の独断を伝える朝日報道を追いかけるかたちで、全国一律の1カ月におよぶ長期の休校案への萩生田氏の抵抗を伝え、「首相側近は『うだうだ議論したって仕方ない』と吐き捨てた」(3月2日朝刊)と報じた。

 毎日新聞のコラム「風知草」(3月2日朝刊)も、「はっきり言えば、首相は今井尚哉・首相補佐官の進言を重く見たのだ――と朝日新聞は書いている」と引用したうえで、「私の取材では、補佐官はじめ側近が準備した資料には、09年新型インフルエンザの際、大阪と兵庫で実施した小中高校一斉休校の記録のほか、スペインかぜなど過去のパンデミックの分析もはいっていた」と述べている。

 これらの報道で注目したいのは、

・・・ログインして読む
(残り:約3491文字/本文:約5073文字)