国内最高、日本歴代4位で代表を決めた 一山の恐るべきノックアウトパンチ
2020年03月12日
新型コロナウイルスの影響で出場選手が100人ほどに縮小された名古屋ウィメンズマラソンは3月8日、女子五輪代表最後の1枠をかけて行われ、一山麻緒(いちやま・まお、22=ワコール)が日本歴代4位、日本国内レースで最高タイムの2時間20分29秒、加えて名古屋で7年ぶりの日本人優勝と、パーフェクトレースで東京五輪最後の代表となった。日本陸連はのちに、この記録を「女子単独レースの日本新記録」と発表した。
1月の大阪国際女子マラソンで優勝し、松田瑞生(ダイハツ)がマークした2時間21分47秒をターゲットとするレースは、序盤から1㌔3分20秒のハイペースで進んだ。昨年9月、男女で行われた選考レース、「マラソングランドチャンピオンシップ」(MGC)では6位に泣いた一山は、ラストチャンスにかけて高地トレーニングに渡米。「3分20秒のペースでどんな時でも絶対に走れるよう、脳と体に叩き込んだ」(永山忠幸監督)と、ハードなトレーニングを積んだ。
30㌔手前、ペースメーカーが離脱してから、「鬼メニュー」(一山)と呼んだそんな練習の成果が姿を現した。マラソンを始めてわずか1年、4回目のレースにもヒロインは頭も心も極めて冷静にコントロールしていたという。
「名古屋は30㌔の給水からレースが動くとアドバイス頂いていた」と、海外勢を給水前で一気に引き離して1㌔3分14秒の猛スピードで給水テーブルにダッシュ。給水中、給水後も含めて、29㌔から32㌔までの3㌔を全て1㌔3分14秒と、この日のほぼ最速スプリットタイムでカバーした。異競技だがまるで、ボクシングのノックアウトパンチのようなキレと重さでライバルを打ちのめし、強さを象徴した3㌔だった。
高橋尚子の圧倒的なスパート力を小出義雄(19年死去)はかつて「ナタのような切れ味で怖い」と表現している。「ここで行く」と決断した瞬間、一切ちゅうちょしない心意気も、日本女子の黄金期を想起させた。
「こんな言い方は変ですが、30㌔まではジョグ(ジョギング)みたいな感じで・・・(3分20秒の設定ペースより早くなっても)ヨシヨシって感じでした」
レース後「フフフ」と、クビをすくめて笑った。2時間20分29秒は、国内の最高記録だった野口みずきの2時間21分18秒を49秒も上回る。しかしさらに目を見張るのは、野口、高橋尚子がそれぞれベルリンでマークした日本記録(当時)を「上回った」パートだ。
まずネガティブスプリット。悪条件のもと、一山はペースメーカーが風よけの役割も果たしていた前半ハーフを1時間10分26秒で通過。一人旅になってからの後半を1時間10分3秒でカバーし、42㌔の後半を23秒速く走った。後半を速くまとめる走りを「ネガティブスプリット」と呼び、こうした走り方が世界で戦うための標準とされる。黄金期を支えた歴代記録、野口の日本記録2時間19分12秒、2位渋井陽子の2時間19分41秒、3位高橋の2時間19分46秒もネガティブスプリットではなく、前半の貯金を最後までキープしたものだった。
次にラスト2.195㌔でランナーの底力を示す‘あがり’と言われるパート。当時日本記録保持者となった3人を圧倒する7分13秒と、
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