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災害被害者の苦境は改善できるか。「被災者総合支援法案」の挑戦

人権を起点に議論を深め、「権利」「参画」「監視」の視点で支援の再構築を

田中雄一郎 論説副主幹

避難所での宿泊演習。参加者たちは体育館の床の冷たさを実感した=2020年1月25日、北海道北見市の日本赤十字北海道看護大学、根本昌宏さん提供

 学校の体育館での雑魚寝。ブルーシートが張られたまま一向に修理が進まない住宅。避難所から仮設住宅、さらに復興公営住宅へと転居を余儀なくされるにつれて地域コミュニティーは崩れ、心身の不調に見舞われる……。

 大きな災害のたびに、被災者をめぐるこうした光景や問題が繰り返されてきた。課題解決への取り組みが重ねられているものの、その歩みはあまりに遅々としている。

関西学院大学がまとめた「被災者総合支援法案」

 被災者支援のあり方を抜本的に見直すために、まずはその「権利」をしっかりとうたい、確立するべきだ。支援にかかわる官民の組織でつくる協議会を通じて被災者の「参画」を間接的に実現し、一人ひとりの事情や必要性に応じた支援が行われているか「監視」する仕組みも整える――。

 阪神・淡路大震災の被災地だった兵庫県西宮市にある関西学院大学災害復興制度研究所がまとめた「被災者総合支援法案」は、支援につきまとう縦割りと硬直性を打ち破り、内容を充実させていくための視座に富む。

 9年前の東日本大震災以後の既存法の改正動向も踏まえた法案の概要を紹介し、被災者の人権を起点に議論を深める重要性について考えたい。

四つの法律を組み直して構成

 大学内外のメンバー20人あまりが参加する研究会が設置されてから3年半、30回を超える議論を経て、被災者総合支援法案はできた。発災直後の救助から復興期の生活再建までを貫く「被災者支援の基本法」という位置づけだ。既存の災害対策基本法と災害救助法、被災者生活再建支援法、災害弔慰金支給等法の四つの法律を「棚卸し」し、それを組み直した6編からなる。

 以下、細かく見てみよう。

 「総則」編では、災害関連死の防止義務をはじめ、被災者の個別事情に応じた配慮と支援、柔軟な対応の必要性、権利の保障、生活再建に向けた自己決定権の尊重と支援への参画など、基本的な理念と方針を規定している。

 「応急救助」編では、避難所だけでなく多様な居住拠点も対象として生活環境の確保をうたった。

 「生活保障・生活再建」編では、現状より支援を拡充することを目指して、亡くなった被災者の遺族や障害を負った被災者への給付、住宅の修理や家財購入、本格的な住宅再建と新規購入への各種支援、収入の減少への補塡(ほてん)といった現金給付のメニューを列記した。

 「情報提供・相談業務・個人情報」編では、物資や資金とともに「情報」を被災者に提供し、相談に応じることが不可欠であると強調し、個々人の事情に応じた支援を行う「災害ケースマネジメント」の土台とすることを掲げた。

Andrii Yalanskyi/shutterstock.com

参画と監視のための制度設計も

 参画と監視のための具体的な制度設計にも踏み込んでいる。

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