「二つに引き裂かれた今の気持ちを言葉にするのは、難しいことです。自分の中の半分は、過去何週間もの努力が、このような形で突然終わりを告げてしまったことにショックを受けて、失望しています。でも同時にもう半分は、もっと重要なことが優先されなくてはならないのを理解して、その判断を尊重しています」
2019年世界フィギュアスケート選手権銅メダリスト、アメリカのヴィンセント・ジョーは自分のツイッターを通してこうメッセージを発した。
北米東海岸現地時間の2020年3月11日午後3時半、カナダのケベック州政府は3月17日からモントリオールで開催される予定だった世界選手権の中止を発表したのだった。WHO(世界保健機関)が新型コロナウイルスの世界的パンデミック宣言をした、数時間後のことだった。
予測されていたことだったとはいえ、やはり実際に発表になったときに関係者たちが受けた衝撃は、少なくなかった。だが選手、関係者、そして集まる予定だった観客たちの安全を考えると、当然の処置だったといえる。
このヴィンセント・ジョーの言葉は、おそらくすべてのファンと関係者たちの気持ちを代表しているのではないだろうか。

モントリオール世界選手権が中止になって、閑散とするオフィシャルホテル Photos by Mario Meinel
そのわずか数日前、筆者はエストニアのタリンで世界ジュニア選手権の取材をしていた。
現地に来ていた関係者たちのもっぱらの話題は、モントリオール世界選手権が無事に開催されるのかどうか、ということだった。
開催されても、日本、中国、韓国の選手たちはカナダに入国できるのだろうか。
「中国の選手のほとんどは、もうカナダに入っているそうです」と、ある国際スケート連盟(ISU)関係者は説明した。中国の選手の多くは、トロント郊外に在住するローリー・ニコルが振り付けを担当している。ニコルが普段振り付けをしているリンクにて、すでに調整に入っているとのことだった。
日本は羽生結弦、宮原知子はすでにカナダを拠点としているので問題なし。宇野昌磨はスイスからの入国なので、おそらく大丈夫だろう。紀平梨花と樋口新葉の状況は、どうなっているのだろうか。
だがそんな懸念も、中止のアナウンスでもはや不要なものになった。日本からはおよそ3000人のファンが来ると見積もられていたが、ISUは販売済みのすべてのチケットの払い戻しに応じることを発表した。
ちなみに筆者がエストニアからニューヨークの自宅に戻った3日後、トランプ米大統領が欧州からの渡航禁止令を出した。