メインメニューをとばして、このページの本文エリアへ

RSS

新型コロナで中止のフィギュアスケート世界選手権、10月開催はできるのか

田村明子 ノンフィクションライター、翻訳家

 「二つに引き裂かれた今の気持ちを言葉にするのは、難しいことです。自分の中の半分は、過去何週間もの努力が、このような形で突然終わりを告げてしまったことにショックを受けて、失望しています。でも同時にもう半分は、もっと重要なことが優先されなくてはならないのを理解して、その判断を尊重しています」

 2019年世界フィギュアスケート選手権銅メダリスト、アメリカのヴィンセント・ジョーは自分のツイッターを通してこうメッセージを発した。

 北米東海岸現地時間の2020年3月11日午後3時半、カナダのケベック州政府は3月17日からモントリオールで開催される予定だった世界選手権の中止を発表したのだった。WHO(世界保健機関)が新型コロナウイルスの世界的パンデミック宣言をした、数時間後のことだった。

 予測されていたことだったとはいえ、やはり実際に発表になったときに関係者たちが受けた衝撃は、少なくなかった。だが選手、関係者、そして集まる予定だった観客たちの安全を考えると、当然の処置だったといえる。

 このヴィンセント・ジョーの言葉は、おそらくすべてのファンと関係者たちの気持ちを代表しているのではないだろうか。

モントリオールの世界選手権が中止になって、閑散とするオフィシャルホテル Photos by Mario Meinel拡大モントリオール世界選手権が中止になって、閑散とするオフィシャルホテル Photos by Mario Meinel

 そのわずか数日前、筆者はエストニアのタリンで世界ジュニア選手権の取材をしていた。

 現地に来ていた関係者たちのもっぱらの話題は、モントリオール世界選手権が無事に開催されるのかどうか、ということだった。

 開催されても、日本、中国、韓国の選手たちはカナダに入国できるのだろうか。

 「中国の選手のほとんどは、もうカナダに入っているそうです」と、ある国際スケート連盟(ISU)関係者は説明した。中国の選手の多くは、トロント郊外に在住するローリー・ニコルが振り付けを担当している。ニコルが普段振り付けをしているリンクにて、すでに調整に入っているとのことだった。

 日本は羽生結弦、宮原知子はすでにカナダを拠点としているので問題なし。宇野昌磨はスイスからの入国なので、おそらく大丈夫だろう。紀平梨花と樋口新葉の状況は、どうなっているのだろうか。

 だがそんな懸念も、中止のアナウンスでもはや不要なものになった。日本からはおよそ3000人のファンが来ると見積もられていたが、ISUは販売済みのすべてのチケットの払い戻しに応じることを発表した。

 ちなみに筆者がエストニアからニューヨークの自宅に戻った3日後、トランプ米大統領が欧州からの渡航禁止令を出した。


筆者

田村明子

田村明子(たむら・あきこ) ノンフィクションライター、翻訳家

盛岡市生まれ。中学卒業後、単身でアメリカ留学。ニューヨークの美大を卒業後、出版社勤務などを経て、ニューヨークを拠点に執筆活動を始める。1993年からフィギュアスケートを取材し、98年の長野冬季五輪では運営委員を務める。著書『挑戦者たち――男子フィギュアスケート平昌五輪を超えて』(新潮社)で、2018年度ミズノスポーツライター賞優秀賞を受賞。ほかに『パーフェクトプログラム――日本フィギュアスケート史上最大の挑戦』、『銀盤の軌跡――フィギュアスケート日本 ソチ五輪への道』(ともに新潮社)などスケート関係のほか、『聞き上手の英会話――英語がニガテでもうまくいく!』(KADOKAWA)、『ニューヨーカーに学ぶ軽く見られない英語』(朝日新書)など英会話の著書、訳書多数。

※プロフィールは原則として、論座に最後に執筆した当時のものです

田村明子の記事

もっと見る