あいちトリエンナーレのあり方検討委員会の報告書は疑問点や問題だらけ
2020年03月23日
激しい電話攻撃や脅迫により、昨年(2019年)夏、「あいちトリエンナーレ」の企画展「表現の不自由展・その後」が、一時中止を余儀なくされた。愛知県が設置した、外部の専門家による検討委員会は昨年末、一連の経緯や展示方法などを検証した調査報告書と、今後のあり方についての提言を公表した。これらを読むと、報告書自体の疑問点や矛盾が次々と浮かび上がるが、メディアも含め議論は低調だ。
検討委員会は、座長を山梨俊夫・国立国際美術館長、副座長は旧運輸省出身で愛知県政策顧問の上山信一・慶応大学教授が務める。ほかの委員は、美術や文化政策、憲法の専門家ら4人。上山さんが記者会見の場で終始、主導しており、報告書をまとめるにあたっても議論をリードしたとみられる。
企画展「表現の不自由展・その後」は、過去に公立美術館で展示が中止となったものなどを見せるという趣旨で、韓国人作家夫婦による慰安婦を表現する少女像や日本人作家による昭和天皇の肖像を扱った作品などが展示された。
昨年8月1日に開幕したが、電話やメール、ファクスなどによる攻撃や脅迫が殺到(8月中に計1万件余り)し、逮捕者も出た。このため、企画展は3日間で一時中止となった。報告書は次のように記す。
「作品の制作の背景や内容の説明不足(政治性を認めたうえでの偏りのない説明)や展示の場所、展示方法が不適切であり、またSNS写真投稿禁止の注意書きを無視する来場者が続出したため、来場していない人たちから強い拒絶反応と抗議を受けた」
展示の責任者は、芸術監督の津田大介さんだ。津田さんは、「脅迫を受けた原因をキュレーションの問題と結論づけるのは、キュレーションさえ正しければ、展示を不快に思う勢力が妨害することはなかったということを前提とする物言いだ」と反論する。
報告書は、「抗議を超えた脅迫等の犯罪行為や、実行委員会事務局のみならず県庁さらには学校等を含む出先機関への組織的かつ大量の電凸攻撃」があったとしている。だが、「組織的」とは、どういうものだったのか。具体的な説明はない。
当時、会場周辺では、街頭でのヘイトスピーチに参加するような人たちや右翼団体の関係者も集まっていたという証言がある。こうした人たちの多くは、会場で作品を見たうえで抗議しているわけではなく、作品の背景などをいくら説明しても通じない。そもそも、そうした作品が出展されること自体が許せないと考えているのだから。
それでは、調査報告書はなぜ、騒動の原因と結果を、現実とかけ離れた、無理な理屈でこじつけたのだろうか。
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