メインメニューをとばして、このページの本文エリアへ

news letter
RSS

[39]緊急提言:コロナ対策は「自宅格差」を踏まえよ

感染も貧困も拡大させない対策を

稲葉剛 立教大学大学院21世紀社会デザイン研究科特任准教授

3.経済危機の影響で生活困窮者が「自宅」を失わないための支援策が必要である

 現在、私たち生活困窮者支援の関係者が懸念しているのは、新型コロナウイルス問題を発端とした経済危機により、失業者や収入が激減する人が急増し、2008~2009年の世界同時不況の時のように、安定した住まいを失う人が多数出てしまうという事態が発生することだ。

 すでに各国の株式市場が乱高下する等、世界経済への影響が深刻化しているが、国内でも観光業、飲食業、音楽、演劇、娯楽、百貨店など、人が集まることでビジネスが成り立つ業種はすでに大きな打撃を受けており、それぞれの職場で先の見えない不安が広がっている。

 国際労働機関(ILO)は3月18日、全世界で最大2470万人が失業する可能性があるとの予測を発表した。この数字は、リーマンショックを発端とする2008~09年の世界同時不況での失業者2200万人を上回っている。

 ただ、ILOは職場の労働者保護、景気・雇用刺激策、仕事・所得支援策を3本柱とする対策を実施すれば、失業者の増加を530万人まで抑えることが可能だと指摘している。日本でも政府が大胆な対策を実行することが求められている。

「自宅を失わないための支援」と「自宅を失った人への支援」の強化を

 政府は3月19日、生活困窮者向けの支援策として、電気やガス、水道などの公共料金の支払期限を延長するなどの措置を講じるよう関係業界や自治体に要請した。国民全員に一定の現金給付をする案も検討されているという。

 こうした対策に加えて、私は「自宅を失わないための支援」と「自宅を失った人への支援」を強化する必要があると考えている。

 厚生労働省は、3月10日に「新型コロナウイルス感染防止等に関連した生活保護業務及び生活困窮者自立支援制度における留意点について」という事務連絡を各地方自治体に発出した。

 この中で厚労省は、リーマンショック時に発出した通知を再掲し、庁内の各部局が連携しながら生活困窮者に適切な支援を実施すること、特に住まいに困窮している人には様々な制度や社会資源を活用して一時的な居所の確保に努めること、福祉事務所は生活保護制度について十分な説明を行い、保護申請の意思を確認した上で、必要な人に保護を速やかに適用すること等を求めている。

 特に最後の点については、「保護の申請書類が整っていないことをもって申請を受け付けない等、法律上認められた保護の申請権が侵害されないことはもとより、侵害していると疑われるような行為も厳に慎むべきであることに留意願いたい」と各自治体に「水際作戦」(生活保護を必要としている人を窓口で追い返すこと)を実施しないよう、改めて釘を刺している。

 厚労省が貧困の急速な拡大を先取りする形で、このような事務連絡を出したこと自体は評価したいが、私は現行の支援策では事態に対応できず、制度改正が必要だと考えている。

 厚労省が「自宅を失わないための支援」の柱として考えているのは、生活困窮者自立支援法に基づく「住居確保給付金」制度である。

 この制度は、リーマンショックを踏まえて2009年に導入された「住宅手当」制度を恒久化したものである。

 リーマンショック時に吹き荒れた「派遣切り」により、多数の人が仕事と住まいを同時に失ったことを踏まえ、「住居確保給付金」制度では65歳未満の「離職者」がハローワークに通って再就職支援を受けることを条件に、一定期間(原則3カ月間、最大9カ月間)、民間賃貸住宅の家賃分を補助するという仕組みになっている。

 しかし、2009年以降の社会の変化を踏まえると、「離職者限定」という要件は非現実的と言わざるをえない。

 全校休校の影響で仕事を休まざるをえなかった労働者への救済策でも、雇用されている労働者とフリーランスとの格差が問題になったが、政府自体が近年、「多様な働き方」、「雇用関係によらない働き方」を推進してきたという経緯があるにもかかわらず、セーフティーネットからはフリーランスや自営業者を排除し続けるというのは無責任極まりない。

 「65歳未満」という要件についても同様である。

 3月19日、70歳までの就業機会の確保を企業の努力義務とする高年齢者雇用安定法等の改正案が衆議院を通過したが、野党や労働組合からは高齢のフリーランスや個人事業主が増え、不安定な働き方を助長するという批判が噴出している。

 近年、年金収入だけでは生活を維持できない「下流老人」問題が深刻化しているが、今回の法改正には、低所得の高齢者に働いてもらうことで貧困を緩和するという意図も盛り込まれているだろう。

 以上のことを踏まえると、「住居確保給付金」の要件を大幅に緩和し、コロナショックの影響で収入が減少して、家賃の支払いが困難になった人全般に対象者を拡大するべきである。働き方や年齢によって選別をすべきではない。

 なお、この要件緩和に法改正は不要であり、厚生労働省の省令を変えるだけで対応可能である。

 また、経済危機の影響で家賃を滞納してしまった人を賃貸住宅から追い出さないよう、政府が家主に要請するという方法も検討されるべきだ。家主が損失を被った場合は補填をする仕組みも合わせて作れば、ホームレス化する人を減らすことができるだろう。

全ジャンルパックなら本の記事が読み放題。


筆者

稲葉剛

稲葉剛(いなば・つよし) 立教大学大学院21世紀社会デザイン研究科特任准教授

一般社団法人つくろい東京ファンド代表理事。住まいの貧困に取り組むネットワーク世話人。生活保護問題対策全国会議幹事。 1969年広島県生まれ。1994年より路上生活者の支援活動に関わる。2001年、自立生活サポートセンター・もやいを設立。幅広い生活困窮者への相談・支援活動を展開し、2014年まで理事長を務める。2014年、つくろい東京ファンドを設立し、空き家を活用した低所得者への住宅支援事業に取り組む。著書に『貧困の現場から社会を変える』(堀之内出版)、『鵺の鳴く夜を正しく恐れるために』(エディマン/新宿書房)、『生活保護から考える』(岩波新書)等。

稲葉剛の記事

もっと見る