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[39]緊急提言:コロナ対策は「自宅格差」を踏まえよ

感染も貧困も拡大させない対策を

稲葉剛 立教大学大学院21世紀社会デザイン研究科特任准教授

4.経済危機の影響で「自宅」を失った人に対して、感染リスクを考慮した支援策を提供する必要がある

 自宅がない人、つまりホームレス状態にある人々をどうやって新型コロナウイルスから守るか、という問題は、日本ではほとんど議論されていないが、欧米では大きな課題として議論されている。

 検索サイトで、“homeless , coronavirus”というキーワードで検索をすると、多数の英文記事がヒットするので、関心のある方はご覧になってほしい。

 米カリフォルニア州のニューソム知事は、3月18日、今後8週間で、州内の路上で生活する10万8000人のホームレスのうち、6万人以上が感染し、医療システムに多大な負担が生じる可能性があるとする専門家の検討結果を発表した。

 ロンドンのサディク・カーン市長は、3月21日、市内にいる路上生活者を感染から守るため、2カ所のホテルの部屋300室を提供するという方針を発表した。

 ホームレス状態にある人の感染を予防することは、人道的な課題であると同時に、公衆衛生の観点からも重要であるという認識が広がっているのだ。

 日本では幸い、欧米ほど路上生活者の数が多くない。

 厚生労働省が昨年1月に実施した概数調査では、全国で確認された「ホームレス」数は、4,555人(男性4,253人、女性171人、不明131人)となっており、ピーク時の25,296人(2003年調査)の5分の1以下に減少している。

 この概数調査は、各自治体が基本、昼間に実施している目視調査に基づくものなので、数字が小さめに出る傾向があるが、近年、生活保護などの支援策につながり、路上生活から抜け出す人が増えているのは事実である。

 ただ、厚労省は路上、公園、河川敷等、屋外で生活をしている人のみを「ホームレス」と定義しているため、ネットカフェや24時間営業の飲食店、貸倉庫、友人宅等に寝泊まりをしている人はこの調査から漏れている。

 東京都は2017年の調査で、ネットカフェ等に暮らす人が都内だけで約4000人いると推計している。全国的な調査を実施すれば、1万を超える人数が確認できるだろう。

 欧米のようにhomelessを広い意味でのホームレス状態にある人と捉えるならば、日本でも決して軽視をしてよい問題とは言えないだろう。

 厚労省は3月10日の事務連絡の中で「住まいに困窮する方への支援」を強化することを自治体に求めているが、そこで例として出されているのは「ホームレス自立支援センター」等の活用である。

 しかし、「ホームレス自立支援センター」等、住まいを失った人に役所が紹介する施設のほとんどは相部屋の環境であり、感染症対策という観点からは大きなリスクがある。

 私は東京都内で路上生活者支援の夜回りを定期的に実施しているが、先日、有楽町駅近くで出会った高齢の男性は‪「生活保護を受けたいが、コロナのことを考えると、(役所が紹介する)10人部屋の施設なんて、おっかなくて入れない」と話していた。‬‬
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 首都圏の福祉事務所では、住まいのない生活困窮者が生活保護を申請した際、民間の宿泊施設を紹介するのが常であるが、こうした施設の中には劣悪な環境により「貧困ビジネス」と批判されている施設も少なくない。

 厚生労働省は「貧困ビジネス」批判を踏まえ、2020年度より民間の宿泊施設を強化する方針だが、居室の個室化については3年間の猶予期間が設けられることになっている。

 こうした状況に対して、ホームレス支援に関わる医師からも、感染症予防の観点から見ると「野宿の方がはるかにマシ」であり、複数人部屋の施設は感染のクラスターになる危険性が高い、という指摘がなされている。

 厚労省は3月10日の事務連絡でビジネスホテルやカプセルホテルの活用についても各自治体が事前に情報収集することを求めていたが、ロンドンのように行政が率先して個室の宿泊場所を多数確保しておく必要があるだろう。

 私が提案したいのは、民間賃貸住宅の空き家・空き室の活用である。近年、災害時には、こうした空き家・空き室を行政が借り上げて、「みなし仮設住宅」として被災者支援に活用するという例が増えてきている。

 今回のコロナショックも、一種の災害とみなし、行政は同様の措置を採るべきである。

 感染症対策として、自宅から外に出ないことが推奨される中、「自宅格差」の問題はかつてないほど深刻なものになりつつある。

 リーマンショック時には、住まいを失った生活困窮者を支えるため、日比谷公園で「年越し派遣村」の取り組みが行われたが、今回は同様の事態が生じたとしても、感染症リスクを考慮すると、人が多く集まる形での相談会の実施は難しい。

 私たち民間の支援者も創意工夫をしていきたいと考えているが、ぜひ行政には事態が悪化するよりも前に、感染拡大防止と貧困拡大防止を両立できる対策を先手先手で実行していただきたいと願っている。

連載「貧困の現場から」が朝日新書に

 今月、拙著『閉ざされた扉をこじ開ける~排除と貧困に抗うソーシャルアクション』が朝日新書から刊行されました。

 2017年から2019年にかけての本連載36回分を再構成し、大幅に加筆・修正したものです。手に取っていただけるとありがたいです。

『閉ざされた扉をこじ開ける~排除と貧困に抗うソーシャルアクション』
稲葉 剛 著
ISBN:9784022950598
定価:869円(税込み)
発売日:2020年3月13日
新書判並製 224ページ 新書754

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筆者

稲葉剛

稲葉剛(いなば・つよし) 立教大学大学院21世紀社会デザイン研究科特任准教授

一般社団法人つくろい東京ファンド代表理事。住まいの貧困に取り組むネットワーク世話人。生活保護問題対策全国会議幹事。 1969年広島県生まれ。1994年より路上生活者の支援活動に関わる。2001年、自立生活サポートセンター・もやいを設立。幅広い生活困窮者への相談・支援活動を展開し、2014年まで理事長を務める。2014年、つくろい東京ファンドを設立し、空き家を活用した低所得者への住宅支援事業に取り組む。著書に『貧困の現場から社会を変える』(堀之内出版)、『鵺の鳴く夜を正しく恐れるために』(エディマン/新宿書房)、『生活保護から考える』(岩波新書)等。

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