社会変革も技術革新も決して後戻りはしない
2020年04月02日
世はコロナ禍によって様々な論点が出現し、よろずごと眉をひそめて足元の事態を語らねばならない雰囲気となった。
社会には役割分担があり、不可欠な活動に従事する人、不可避な事態に対処する人、自ら作り出す雰囲気に悪循環を起こす人、が圧倒的多数の中で、各々の持ち場に全力で取り組み、敬意をもって互いの行動を受け止めるのが最善の姿であろう。
一方で、世の中は多数決で決めてはいけない場面もあり、専門的見地からの意見が尊重されるべき場面もあることを冷静に理解することが、この雰囲気の打破に必要だ。本稿は、シンクタンク研究員としての長期的観点から、このタイミングでこそ述べるべき論点の一つに触れる。不要不急かどうかは、世の声が決めることではない。
テレワークによる在宅勤務。この言葉がこのタイミングで劇的に認知度を上げることになった。人はどこまで職場まで移動せずに仕事を成り立たせることができるのか、の壮大な社会実験に不意に突入することになった。
今や筆者宅最寄りの田舎駅にも「混雑緩和にご協力、時差出勤やテレワーク‥」のアナウンスが流れる。筆者が現職に転職した6年前、ある幹部は筆者に「テレワークって、なんだ?」と言っていた。
テレワークとは、パソコンやスマホを使って事業所執務室内でなくても業務を遂行し、通勤混雑・道路交通渋滞も含めた都市生活構造の課題を解決するためには、IT技術進歩・労務制度整備・ぺーパーレスなど商習慣や法令の改善、を一体的に進めることが必要だ、2020~40年頃に訪れる高齢者社会によって人手不足にもこれで対応でき、働き方は多様化させておかないと日本経済は立ち行かない、という観点で2000年頃から始まった政策用語だ。
だから管轄官庁としては厚労省(労務制度担当)、総務省(情報通信担当)、経産省(産業構造担当)、国交省(都市問題担当)、がかなり濃密に連携して普及啓発活動に取り組んでおり、やはり4省庁が管轄する自動運転(警察、総務、経産、国交)とともに早くからオール霞が関の政策推進が比較的うまく機能してきたテーマであった。
そしてこのテレワーク推進の専門的知見を持つ産官学様々な人々から、このテレワークが非常時対応、今でいうBCP(事業継続計画)の担保策としてかなり有効に機能することが広く知られていた。それは2011年の東日本大震災はじめコロナ禍に至るまでの様々な自然災害・人災において、とくに動き続けなければならない政府や自治体において有効に機能していたことが定量的にも証明されていた。
そして〝めでたい人災〟としての〝東京オリパラ時に都心に通勤せずに大会にご協力を〟という観点で日本一斉「テレワーク・デイズ」を大会期間中に実施しようというキャンペーンと、そのためのこの数年のカウントダウン予行演習的実施も進められてきた。それこれのファクトと効能と事例群と各種支援制度は、例えば一般社団法人日本テレワーク協会のWebサイトから分け入るとわかりやすいだろう。
企業ごとの労務制度の改訂は、テレワーク導入の制約要因にはもうなりえなくなっている。この5年ほどの大きな法改正によって、実はかなり簡単に事業所外労働の導入が可能になった。ITの投資についても、もうスマホもパソコンも持っていない就労者はごくわずかになった。情報漏洩対策や勤怠管理をきちんと行えるソフトウェアも、あのGAFA含めて星の数ほど導入されている。
テレワークにいかにも向いていないと考えられがちな「接客サービス」「秘書・受付」「介護・保育」「製造現場」「物流」などの職種ですらも、AI(人工知能)との組み合わせによって導入事例が着実に増えており、それを政府も声高に告知宣伝してきた。
テレワーク導入の障害は、もはや①企業トップの経営感覚、②中間管理職の感覚的抵抗、③従業員自身の自律意識、といった属人的問題だけ、というべき状態までお膳立ては整っているというのが、筆者を含めてこのテーマを長らく見ている立ち位置からの事実認識だ。
そこにたまたま東京オリパラの準備があり、さらにコロナ禍がやってきたにすぎない。決して普及啓発のチャンスと言うべきではないが、世に具体的に貢献すべき重要局面として、実は子育てママが多く含まれている産学官(社労士やITコーディネータなど資格保有者も含む)の担当の方々がテレワークの導入と普及啓発に奔走している。
前置きが長くなったが、このコロナ禍による急激かつ緊急的な「にわか在宅テレワーク勤務」の導入が各企業等で進められ、またいずれは多くが撤回される中、テレワーク本来の効能である多様な働き方の受け入れやコストダウンや時間短縮などを上手に引き出せずに「失敗事例化」するケースが多数
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