人生100年時代の旅の愉しみ【3】鰹節のうま味凝縮 西伊豆で守られた巧の技
2020年04月04日
今回は昔から伝わる「発酵」を活用した食品を紹介しよう。私達の食生活になじみの深い鰹節である。日本料理の基本的な食材で、ユネスコの無形文化遺産に登録されている和食のうま味の多くは、昆布と共にこの鰹節が担っているといっても過言ではないだろう。保存食から調理の質を一段と高める調味の素に、その利用が変わっていった過程には先人の知恵と技の工夫があればこその歴史を持つ。その伝統を今も受け継ぐ静岡県西伊豆町の鰹節の生産現場を訪ねてみた。
西伊豆町は伊豆半島の西側、ちょうど半島の中ほど近くにあり、西に駿河湾、東に天城山系をひかえる海辺の町である。細くて長い入江が幾重にも入り込み、その入江ごとに小さな漁港があり、集落がある。昔から沿岸を中心とした漁業で栄えた町であった。
その入江のひとつに、西伊豆観光のハイライトとも言える堂ヶ島の天窓洞(国指定天然記念物)がある。
海食によって開いた洞窟の真ん中あたりに、浸食により天井が円形に抜け落ちたところがあり、天窓のように空がのぞけることから、天窓洞の名がある。遊覧船でぐるりと巡ることができ、時間によって差し込む光線が水面を浮かび上がらせ、幻想的な光景が広がるので人気を呼んでいる。
近くには高島、沖ノ瀬島、中ノ島、伝兵衛島の4島があり、角度によって3島とも4島とも見えることから、総称して三四郎島と呼ばれる。中でも海岸と伝兵衛島の間は、干潮時に長さ約200メートル、幅約30メートルにわたって砂州ができ、歩いて渡れる珍しい「トンボロ」現象が見られる。
ここから岬を2つ越えると田子(たご)の集落に入る。かつてのカツオ漁の本場で、平成15(2003)年に発行された「田子漁業史」によれば、最盛期の昭和45(1970)年には所属する50トン以上の漁船39隻中、カツオ漁船が31隻を占めたと伝えている。カツオ漁に特化した漁港であったことがうかがえる。それだけ近海では盛んにカツオが獲れたのである。
現在は5トン以下の小型船が24隻ほど。沿岸でイカやイセエビ漁などが続けられ、カツオ船の姿はない。
しかし、うれしいことに鰹節作りの伝統は脈々と受け継がれ、現在も鰹節製造工場が4軒ある。
田子漁港から浜伝いに行くと、夕日の美しさで知られる大田子の海岸に出る。平成17年に「夕陽日本一宣言」を発したところで、点在する奇岩がシルエットになって浮かびあがり、一幅の絵のような景色が眺められる。
その大田子の浜から緩やかにカーブする道を歩いて10分ほど上って行くと、
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