美味しいから勧めたい!発酵食をめぐる旅―その2
人生100年時代の旅の愉しみ【3】鰹節のうま味凝縮 西伊豆で守られた巧の技
沓掛博光 旅行ジャーナリスト

干潮時には三四郎島のひとつ伝兵衛島と陸地との間に砂州ができるトンボロ現象が見られる
今回は昔から伝わる「発酵」を活用した食品を紹介しよう。私達の食生活になじみの深い鰹節である。日本料理の基本的な食材で、ユネスコの無形文化遺産に登録されている和食のうま味の多くは、昆布と共にこの鰹節が担っているといっても過言ではないだろう。保存食から調理の質を一段と高める調味の素に、その利用が変わっていった過程には先人の知恵と技の工夫があればこその歴史を持つ。その伝統を今も受け継ぐ静岡県西伊豆町の鰹節の生産現場を訪ねてみた。
入江ごとに漁港が点在 幻想的光景に出会う
西伊豆町は伊豆半島の西側、ちょうど半島の中ほど近くにあり、西に駿河湾、東に天城山系をひかえる海辺の町である。細くて長い入江が幾重にも入り込み、その入江ごとに小さな漁港があり、集落がある。昔から沿岸を中心とした漁業で栄えた町であった。
その入江のひとつに、西伊豆観光のハイライトとも言える堂ヶ島の天窓洞(国指定天然記念物)がある。
海食によって開いた洞窟の真ん中あたりに、浸食により天井が円形に抜け落ちたところがあり、天窓のように空がのぞけることから、天窓洞の名がある。遊覧船でぐるりと巡ることができ、時間によって差し込む光線が水面を浮かび上がらせ、幻想的な光景が広がるので人気を呼んでいる。
近くには高島、沖ノ瀬島、中ノ島、伝兵衛島の4島があり、角度によって3島とも4島とも見えることから、総称して三四郎島と呼ばれる。中でも海岸と伝兵衛島の間は、干潮時に長さ約200メートル、幅約30メートルにわたって砂州ができ、歩いて渡れる珍しい「トンボロ」現象が見られる。