人生100年時代の旅の愉しみ【4】木曽に伝わる漬物の至宝「すんき」
2020年04月09日
長野県の木曽地方には、「すんき」と呼ばれる漬物がある。一般にはあまり知られていないが、300年以上の歴史を持ち、塩を使わぬ漬物として家々で継承されている。冬から早春にかけての無くてはならない保存食であり、食べ物なのだ。近年は科学的な解明も進み、数億個の乳酸菌を含んでいて体にいいことや、貝と同じうま味成分を持つこともわかり、その美味しさとあいまって、若い女性の間でも人気が高まっている。
約160年前にパスツールが乳酸菌発酵の研究を本格的に始めた。そのはるか以前から作られている、乳酸菌を活用した木曽地方の“漬物の至宝”を紹介しよう。
木曽川が深い谷を作って流れる木曽町や上松町、その奥の御嶽山の麓の王滝村などで主に収穫される赤カブの葉と茎を使った植物性の乳酸菌発酵食品である。
その中心である木曽町を訪ねた。鉄道の玄関口、中央線木曽福島駅で降りると、塩尻市出身の歌人太田水穂が歌った「山蒼く暮れて夜霧に灯をともす 木曽福島は谷底の町」の碑が立つ。
当時と町の光景は異なっていても、木曽川の谷を挟んで山が迫り、“谷底の町”のたたずまいを実感する。
木曽町は、江戸時代に中山道の福島宿として栄えた歴史を持つ。中山道69次のうち、江戸から数えて37番目。木曽十一宿のひとつである。かつての宿場町は昭和2(1927)年の大火でほとんどが焼失し、一部に卯建(うだつ)のあがる民家数軒が立ち、旅人ののどを潤した水場などと共に風情をわずかに残している。
この木曽町のふる里の味と言えば、「すんき」である。初めて聞く方も多いだろうが、一帯で採れる赤カブと呼ばれる、文字通り実の赤いカブの主に葉と茎を漬け込んで、野菜の少ない冬から春先にかけて食べる保存食である。
すんきの特徴は、一切塩を使わず、活きた乳酸菌の発酵で漬けるところである。美味しくて体にいいと、最近では若い女性の間でも人気がある。
作り方はいたってシンプル。11月下旬、冬が近づき霜が降りた頃に赤カブを収穫し、この葉と茎とカブのつけ根をよく水洗いして刻み、60度から70度の湯で湯通ししてから、発泡スチロールなどの容器に葉、茎、つけ根と、発酵の種となる前年のすんきを交互に重ねて漬けていく。
この時、肝心なのは、「すんきの温度を下げずに素早く漬けることだ」とベテランの主婦。詰め終えたら、
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