田中駿介(たなかしゅんすけ) 東京大学大学院総合文化研究科 国際社会科学専攻
1997年、北海道旭川市生まれ。かつて「土人部落」と呼ばれた地で中学時代を過ごし、社会問題に目覚める。高校時代、政治について考える勉強合宿を企画。専攻は政治学。慶大「小泉信三賞」、中央公論論文賞・優秀賞を受賞。twitter: @tanakashunsuk
※プロフィールは原則として、論座に最後に執筆した当時のものです
「大学の危機」をどう乗り越えるか、渦中からの訴え(上)
大学が、危機に瀕している。新型コロナウイルスの感染拡大に伴って、今まで、多くの人が直視してこなかった学生の「格差」が、一気に露呈したのである。
「何もかも困ってる。特にバイトが全てなくなって貯金が5000円しかない」「家の中は騒がしく、演習形式のオンライン授業が出来ない。おそらく大学に行き、受ける事になる」「この時期に新たにアルバイトを探せるかどうかが不安である」(筆者が実施したアンケートより)。
文部科学省によれば、大学・短大・高専の約8割が、授業の開始を延期したという。筆者が通う慶應義塾大学を含め、キャンパスを封鎖する大学も出てきた。しかし、オンライン授業にうまく移行できるかというと、ここでも「経済格差」がそのまま「教育格差」となって学生たちを追い詰める。さらに、「セーフティーネット」としての大学の役割も停止しつつある。
学生の一人として現状を報告し、一刻も早い事態の改善を訴えたい。
筆者は、格差問題にあまりに無遠慮な、1通の「通知」にあきれてしまった。
4月上旬、筆者が通う慶應の当局から、1・2年生向けに「オンライン授業受講のための準備について」と題する通知が来たのである。現場は混乱しているのであろうか。4月8日現在、3・4年生と院生には同様の通知は来ていないのであるが。
そこには、「固定回線からのWiFiルーターや有線LANによる接続、あるいは通信制限がない定額制のモバイルルーター利用や4G電話回線契約を強く推奨します」「PC(インターネットに接続可能で、内蔵・外付けを問わずwebカメラ・マイク・スピーカーを備えるもの)を用意してください」「スマートフォンを用いてオンライン授業を履修することも可能です。しかし画面が小さいため動画やスライド等の細部が見にくく」なるなどの文言が並ぶ。
一方的に「契約を強く推奨します」「用意してください」と言われても、払えない人はどうすればいいのか。ただでさえ、多くの学生はバイトを減らされている。PCを買うために必要な資金がない場合、悲惨な受講スタイルになることを、事実上大学当局が認めた形になる。
文部科学省は、これから国会に提出する補正予算案に、オンライン授業の環境整備のための費用を計上する。しかし、慶應大の場合は4月30日から、東京大などでは当初の学事暦通りに新学期が始まっているという。また、一部のゼミでは、学事暦に先駆けて授業を開始している例も聞く。学生はすでに、みずからオンライン化に対応するよう迫られているのである。
大学当局からは、「緊急事態宣言」が出ている間、図書館が閉鎖されるとの連絡もあった。今まで筆者はゼミなど授業で使う文献は、基本的に図書館で借りていた。予定通り授業が始まれば、当初は不要だった書籍購入費まで、自己負担を強いられることになる。