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新型コロナで露呈する学生の「格差」問題

「大学の危機」をどう乗り越えるか、渦中からの訴え(上)

田中駿介 東京大学大学院総合文化研究科 国際社会科学専攻

オンライン授業と環境整備はセットだろ

 筆者は、4月1日にフェイスブックを通じて、大学生や大学院生らを対象に、ネット環境などについてアンケートを実施した。その日のうちに56人の回答を得たが、回答者の居住形態は、実際の大学生のものとおおむね合致した。その結果、自宅に十分なネット環境がなかったり、スマホ以外の端末がなかったりする学生は、それぞれ約2割、約1割存在することが明らかになった。

 また、コロナの影響でアルバイトを減らされたかという質問では、アルバイトをしている人の半数が「減らされた」と答えた。「緊急事態宣言」が発令された7日以降は、商業施設や飲食店、学習塾などが「閉鎖」を余儀なくされ、事態はより深刻化しているだろう。

 ここから読み取れることは、ひとまず約8割の学生は問題なく自宅で受講できる可能性が高い。仮にモバイルルーターを貸与(ないしは金銭的補助)するとしても、2割の学生に対してのみで済むということだ。

 筆者が通う慶應大の場合は、新型コロナの感染が広がる前から、学生に対し、1週間に限ってノート型PCの貸与を行っている。実際、筆者も数回利用したことがある。ただ残念ながら、1月末から「春学期開始まで」その貸与は「中止」されている。そして、4月7日からキャンパスが事実上封鎖され、このサービスを利用することはできない。

パソコンの貸し出し停止を知らせる掲示=東京都港区の慶應義塾大、筆者提供拡大パソコンの貸し出し停止を知らせる掲示=東京都港区の慶應義塾大、筆者提供
 それでも、オンライン機器の現物を貸与するサービスの運用実績があるのだから、学生に自主的な対応を求めるよりも、モバイルルーターの貸与などを検討すべきだったのではないか。

 ツイッターでは「自粛と補償はセットだろ」という市民の書き込みがあふれた。あえてその表現を拝借すれば、「オンライン授業とネット環境整備はセットだろ」と主張したい。大学受験時に環境整備の必要性が周知されているならともかく、急に「要請」を出されても、金銭的負担がある以上、学生の意思だけでどうにもできない場合もあるのだから。

通信会社「特別措置」の落とし穴

 総務省の要請を受け、NTTドコモ、au、ソフトバンク、ワイモバイルのスマホについては「25歳以下」を対象に、当面、月間のデータ容量を超えたあとも50GBまでは追加料金がかからないようになった。

 一見、素晴らしい施策のように思われる。しかし、大きな落とし穴がある。それは、格安の通信業者(いわゆるMVNO=通信会社から回線を借り受け、通信サービス料金の安い「格安SIM」を提供している事業者)の利用者の大半は対象外になることである。

 実際、筆者も「格安SIM」を利用している。筆者はスマホを2台持ちしているが、そのうち1台は6GBで月1000円ほどで契約ができている。またもう1台は500MBまでは0円という契約内容だ。大手の契約だと、通常月々9000円くらいが平均だというデータもあるから、格安に利用できていることが分かるだろう。

 しかし、このどちらも今回の特別措置の対象外である。筆者が利用している通信会社の場合、1社は3月末までに月3100円の20GB、もしくは月5000円の30GBのプランを選択していた25歳以下の契約者のみが対象となり、もう1社は特別措置の対応がないからである。

 「大手と契約」か「格安SIMと契約」か。平常時には「節約できる」選択肢が、緊急時には裏目に出て、排除の対象になってしまう。さらに、特別対応の対象が「25歳以下」に限定されている点も見逃せない。大学院生やいわゆる多浪生のなかには26歳以上の学生も多いだろう。

 筆者にとって、この総務省の対応は、休業補償について当初は風俗関係者を対象外にした厚労省の対応と重なって見えてしまう。

 「格安SIM」使用者のなかには、困窮しているがゆえ自宅にネット環境がない学生も多くいるだろう。すでに新年度が始まっているのだから、一刻も早く、「格安SIM」利用者も特別対応の対象にすべきではないだろうか。

「退学者続出」防ぐ対策を

 深刻なのは、バイトを減らされた学生は「ギガ問題」に苦しむことになりうる学生数よりも多いことである。下宿をしている層では、仕送りが減らされている可能性も否定できない。一方、オンライン授業の導入で、大学側は光熱費が節約される。そうしたことも踏まえて、学費減免措置の拡充や、生活費給付の検討を訴えたい。

 さもなくば、退学者の続出が懸念される。やや古いデータになるが、文部科学省は、平成24年度の学生の中途退学について調査している。退学の理由としては「経済的理由」が「学業不振」を上回り、「その他」を除いて最多になっている(注) 。

(注)文部科学省「学生の中途退学や休学等の状況について」閲覧日:2020年4月8日。

 もともと、経済的に困窮している学生は数多い。筆者のある友人は、真冬の北海道で下宿先の電気を止められてしまった。彼は、夜間も暖房が使用可能な研究室で夜を過ごし、難を逃れたという。

 そのうえに起きた今回のコロナ騒動が最後の一押しとなり、「退学予備軍」が「退学者」になってしまうことを筆者は懸念している。

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筆者

田中駿介

田中駿介(たなかしゅんすけ) 東京大学大学院総合文化研究科 国際社会科学専攻

1997年、北海道旭川市生まれ。かつて「土人部落」と呼ばれた地で中学時代を過ごし、社会問題に目覚める。高校時代、政治について考える勉強合宿を企画。専攻は政治学。慶大「小泉信三賞」、中央公論論文賞・優秀賞を受賞。twitter: @tanakashunsuk

※プロフィールは原則として、論座に最後に執筆した当時のものです

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