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新型コロナで露呈する学生の「格差」問題

「大学の危機」をどう乗り越えるか、渦中からの訴え(上)

田中駿介 東京大学大学院総合文化研究科 国際社会科学専攻

精神的困難を抱える人の「居場所」

 筆者の知り合いのなかには、経済的な困難のほか、精神的に困難な状況を抱えてキャンパスに通う人も多い。大学では無料でカウンセリング室を利用できるし、一部の教員も積極的に学生をケアしている。しかし、この緊急事態においては、そうしたサービスを利用することは非常に困難になる。

 筆者は、慶應大で「発達障害をささえる会」というサークルに所属している。発達障害当事者が大学生活を送るうえで、障壁となる事柄を一つずつ解消することを目指している。

 そこで聞いた、ある当事者の女性の指摘が忘れられない。授業履修登録が複雑で、サポートが必要だというのである。授業の中には、たとえば「人間科学特殊XXVA(科学・技術の人類学)」などといったように、授業名が複雑なものも多い。授業履修はオンラインで行う必要があるが、キャンパスが封鎖されれば、手助けを受けられる見込みは極めて低くなる。

 ある女子大に通っていた、双極性障害当事者からも話を聞いた。彼女によると、カウンセリングルームは無料であるうえに、学校に付属している機関ということで学生の事情を理解しやすく、きめ細かな対応をしてくれた点が良かったそうだ。彼女によると、カウンセリングルームは精神的な困難を抱えた当事者たちの「居場所」になっており、そこが閉鎖されると、オフライン/オンラインを問わず人間関係が「なくなる」人たちも多いという。

 なかには、家族との折り合いも悪く、自宅に留まることで症状を悪化させうる学生も多いという。彼女が一番心配するのは、自宅外に出て学校にいくことで頑張れる、学校に居場所を見つけてきた精神疾患当事者が、生活リズムを崩したり、病状を悪化させたりして「負のスパイラル」に陥ることである。

「セーフティーネット」としての大学の役割

「緊急事態宣言」を受けて、学内施設の閉鎖期間延長を知らせる学生への通知の一部(筆者提供)拡大「緊急事態宣言」を受けて、学内施設の閉鎖期間延長を知らせる学生への通知の一部(筆者提供)
 キャンパスが封鎖されれば、大学のキャリアないしは就職活動相談室、奨学金窓口も、従来のような形では使えなくなる。実際に、慶應大でも「緊急事態宣言」発令中はキャンパスを閉鎖するという通知が各学生にメールで送られてきた。

 「健常者」で、恵まれた環境にいる人のなかには、自身でインターンシップに参加したり、就活を乗り切ったりできる人もいるかもしれない。しかし、このままキャンパスが封鎖され、学生へのサポートが停止し続けるとすれば、さまざまな理由で困窮している人が、学校から、そして社会からも「ドロップアウト」することにつながる。

 いまや大学は、研究と教育のためだけにあるわけではない。キャンパスの封鎖は、「セーフティーネット」としての大学の役割を、完全に停止させてしまう危険性をはらむ。そんな事態は、なんとしても避けなければならない。


筆者

田中駿介

田中駿介(たなかしゅんすけ) 東京大学大学院総合文化研究科 国際社会科学専攻

1997年、北海道旭川市生まれ。かつて「土人部落」と呼ばれた地で中学時代を過ごし、社会問題に目覚める。高校時代、政治について考える勉強合宿を企画。専攻は政治学。慶大「小泉信三賞」、中央公論論文賞・優秀賞を受賞。twitter: @tanakashunsuk

※プロフィールは原則として、論座に最後に執筆した当時のものです

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