深刻化する虐待、少女を狙う大人たち
2020年04月15日
私が代表を務めるColaboでは、10代女性を中心に、虐待や性暴力被害に遭うなどした少女たちを支える活動を行っている。
中高生は、3月から学校が休校になり、4月からも通学再開の見通しが立たず、アルバイトも減らされるなどして収入は激減。外出自粛要請で、自分も親も家にいる時間が長くなったことなどから、親からの支配や、虐待のリスクが高まって相談が増えており、Colaboでは学校休校が始まった3月から4月13日までに200名を越える相談に対応している。
緊急事態宣言が出された4月7日からの7日間の相談者は65名で、4月10日には東京都がネットカフェへの休業要請を行ったため、ネットカフェを追い出された人からの相談も急増している。
虐待などを背景に、家で安心して過ごせない人にとって、自粛要請によって家にいる時間が長くなることは、暴力や性虐待を受けるリスク、危険が高まり、精神的な負担も増大することを意味する。
また、10代であっても、アルバイト代で自身の生活費や学費を稼いで生活している人も少なくなく、そうした人たちも、コロナの影響でシフトを減らされるなどし、収入が激減している。
家にいられない、帰れない、帰りたくない状況の中で、仕事もできず、その日食べるお金もない人たちは、ネットカフェなどに滞在することも難しくなる。
そうした状況に、性搾取を目的とした業者や買春者などがつけこんでいる。「役所で紹介される仕事や宿泊先とは違い、デメリットはありません」「仕事や住まいを失った人、家族と距離を置きたい人を支援します」「食費や寮費も無料の求人を紹介できます」「行くところがないなら、うちにおいで」などといういい方で、SNSや街中で、女性たちを狙った声掛けも行われており、安全な居場所・住まいを確保し、安心して生活を送れるようにするための支援の必要性が増している。
そこで、Colaboでは、4〜5月の2カ月間、緊急ステイ先を確保し、支援体制を広げることにした。ホテル経営をしている企業から支援の申し出があり、緊急事態宣言が出た4月7日からは、50ベッドにさらに受け入れ体制を広げ、20代の女性への宿泊支援や食費の緊急的な支援も積極的に行うことにした。しかし、マスクや消毒液、体温計の不足など、民間任せでは対応できない状況も生じている。
今は、支配や暴力のある環境で生活した経験のある人や、トラウマを抱えて生きている人にとっては、特に苦しい状況である。
現実に、感染者や死者が毎日世界中で増え続け、生活が制限され、仕事やお金がなくなるということが起き、先が見えない不安の中にいる。
自分ではコントロールできない、目に見えないウィルスへの恐怖や、命や日常が奪われるかもしれないという不安は、虐待やDVなどの被害体験と重なり、トラウマの影響を受けることになりやすい。
私たちが関わっている10代の女性たちの中にも、「コロナに感染して自分や多くの人が死ぬ」という夢を見たり、感染の恐怖からささいなことにも過敏になったり、少しの外出もできなくなってしまったり、パニックを起こしたり、「自分が安全なところにいる」と思えず、いつ暴力をふるわれるかわからない状況にいたときのような不安感に襲われたり、自分は無力だと感じてしまい、何もやる気になれなくなって日常生活を送ることが今まで以上に苦しくなったりしている人もいる。
今は暴力のない環境にいても、仕事にも学校にも行けない中で、そうした不安が強まり、体調を崩している人も多いが、病院やカウンセリングにも行きにくい。
こうした状況が続くなかで、暴力被害を受けた人は、自分を大切にできなくなっていくこともある。しかし、こんな時だからこそ、自分を大切にする時間、リフレッシュする時間を意識的にとることが大切だ。
私自身も、虐待や性暴力被害のサバイバーであり、普段から、なかなかそれができないのだが、この記事を読んで「自分も疲れている」「不安が強くなっている」と思ったら、ぜひ、意識して気分転換や自分のケアになることを探して、やってみてほしい。
非常時には、女性や子どもへの暴力は深刻化するため、国連も「救済措置を」と呼びかけている。
しかし、安倍首相は緊急事態宣言をした7日の会見で、「海外では、DVが増加しているという状況が出てきているということを私も承知をしておりますが、国内において、まだそういう兆候が出ているということを、私は報告は、今、受けておりません」と発言した。
民間シェルターによる「全国女性シェルターネット」が3月末に安倍首相らに宛てた要望書でも、支援現場から、実際に新型コロナウィルスの影響で深刻化しているDV被害等の状況について記載されており、4月3日の国会で山添拓議員がこれを取り上げて質問した。それに対して安倍首相は、「政府として、今朝、地方公共団体に対し、DVの相談対応から保護に至るまで、支援の継続的かつ迅速な対応を依頼いたしました」と答弁していた。
また、日本でもコロナの影響をきっかけに、夫のDVで女性が亡くなる事件も既に起きているにも関わらず、国内ではまだそうした問題が発生していないと発言したのだ。
これまでにも安倍首相は、市民の生活や、若者の苦しい状況が想像できていないと思わざるを得ない対応を続けていた。例えば、4月1日には新入生、新社会人へのメッセージとしてSNSにこんな投稿をした。
「感染症が経済社会に甚大な影響を及ぼす中、不安を感じている皆さん。そして大変な困難の中で、今日の日を迎えた方もおられると思います。そうした経験もきっと、皆さんのこれからの人生の中で、大きな財産になる。そして、いつの日にか『あの時は大変だったけど みんなで頑張って乗り越えたなぁ』 そう語り合うことができる日が来るよう、私も全力を尽くしていきます。(略)顔を上げて、前に向かって、人生の新たなスタートをきっていただくよう、期待しています。いっしょに頑張りましょう! 応援しています」
専門家会議の意見も聞かずに決めた休校要請の根拠も示さず、不安を抱える若い人たちへの説明もしないのに「顔を上げましょう? 笑っちゃうね」と、Colaboのシェアハウスで暮らす高校を卒業したばかりの女性も、あきれていた。そしてこの日、首相はマスク二枚を全住所に配布することを発表した。
私も、首相のこの対応には、声を出して笑ってしまったが、そのあと虚しくなり、怒りで震えた。笑えてくるのは、あまりにも私たちのことを考えていない、大切にする気がないということを心の底から感じて傷ついたからだろう。ゾッとして、具合が悪くなる。
何が必要か、想像できない無知な人たちが権力を握っている。それも、自らの立場を守るためには、堂々と嘘をつき、もりかけ問題、桜を見る会、IR汚職などについても説明をしない、そして、公文書改ざんをさせられたことを苦にして絶たれたという人の命があっても、平然と無視できるような人たちが。
ウィルスの恐怖以上に政府の対応から、ますます不安が広がっている。
虚しくて、怒りを感じられない人もいるだろう。怒れる人は怒ろう。精神論で乗り切れる状況ではないし、耐えることを美談としてはいけない。苦しいときは、苦しいと言っていい、耐える必要はない。
さらに、安倍首相は4月12日、星野源さんがSNS上で公開した「うちで踊ろう」という動画に便乗し、自身が自宅のソファーで犬を抱き、優雅にコーヒーを飲んだり、本を読んだり、テレビを眺めたりする様子を撮影した動画を投稿した。そこには、「友達と会えない。飲み会もできない。ただ、皆さんのこうした行動によって、多くの命が確実に救われています」というコメントが添えられていた。
この動画にはすでに批判が殺到しているが、今日も荒れた天気の中、家にいられず、ネットカフェも追い出されて、行き場を失くした人が溢れているのに、職を失い、住むところを失い、暴力から逃れる場所のない人々の命が奪われそうになっているのに、こんな姿を見せて、何をしたいのだろうか。
政府の対応からは、そうした人々への目線は感じられない。
「コロナ『緊急事態宣言』で、少女たちに起きていること(下)」は16日夕、公開する予定です。
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