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命あるうちに雪冤が果たせるか 大崎事件・第4次再審請求を申し立て

40年以上無実訴える原口さん「あたいは、やっちょらん」

大久保真紀 朝日新聞編集委員(社会担当)

 3月30日、「大崎事件」の裁判のやり直しを求める第4次の再審請求書が鹿児島地裁に提出されました。

 「大崎事件」は1979年10月15日、鹿児島県大崎町で、3日前から行方不明になっていた男性(当時42)の遺体が、男性宅の隣にある牛小屋の堆肥の中から発見された事件です。義姉の原口アヤ子さん(92)は取り調べ段階から一貫して無実を訴えましたが、男性の長兄にあたる当時の夫らと共謀して男性を絞殺したとして殺人と死体遺棄の疑いで逮捕され、懲役10年の刑が確定、服役しました。

事件当時は知られていなかった「強力な新証拠」

4回目の再審請求のため鹿児島地裁に入場する大崎事件の弁護団=2020年3月30日、鹿児島市

 確定判決は、罪を認めた「共犯者」の夫ら親族3人の供述や死因を「窒息死」と推定した当時の法医学鑑定から「タオルによる絞殺」と認定しています。

 第4次の再審請求で提出された新証拠は、埼玉医科大総合医療センター高度救命救急センター長の澤野誠教授の医学鑑定などです。遺体で見つかった被害者は行方不明になる直前に自転車で側溝に落ち、連絡を受けた近隣住民の2人が軽トラックに乗せて自宅に連れ帰ったことは当初からわかっています。

 澤野教授は、解剖時の写真を分析して、自転車の転落事故で頸髄が損傷し、全身の状態が悪化して「非閉塞性腸管虚血(NOMI)」が起こり、それによって腸管が壊死して、腸内に大量出血したことが死因だと鑑定しています。

 さらに、頸髄損傷が起きている人は慎重に頸椎保護をした上で動かさなくてはならないと強調していますが、近隣住民2人は酒癖の悪かった被害者がいつものように酔っ払っていると思って、被害者を軽トラックに「放り込むようにして」乗せています。そうした状況では、被害者の状態が急激に悪化して、自宅に着く前に死亡していた可能性も十分にあると、澤野教授は指摘しています。

 澤野教授による医学鑑定を、弁護団は「強力な新証拠」と位置づけています。こんな重要なことが、なぜいままで指摘されなかったのだろう、という疑問が浮かんできますが、「非閉塞性腸管虚血(NOMI)」は1958年に海外で初めて報告された、比較的新しい知見だそうです。日本で論文が書かれたのは1981年で、事件当時は知られておらず、被害者の事件直後の解剖による鑑定書で言及されていないのは不自然ではない、と澤野教授は説明しています。

刑事裁判の鉄則を遵守した地裁の再審開始決定

 これまで原口さんは3回、再審請求を申し立てています。その中で、第1次の地裁(2002年)、第3次の地裁(2017年)、高裁(2018年)で、計3度の再審開始決定が出ています。「開かずの扉」と言われる再審開始決定が3回も出たのですが、いずれも検察側の抗告によって、上級審で

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