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緊急事態宣言下の東京で「住まい」を失う人々へ何が必要か?(下)

ポストコロナのレジリエントな都市へ「住まい」のあり方を再考する

北畠拓也 デモクラティック・デザイナー

人々が家路へつく頃、今夜の寝床へ向かう「インビジブルな人々」が多数存在している。筆者撮影拡大人々が家路へつく頃、今夜の寝床へ向かう「インビジブルな人々」が多数存在している。筆者撮影

 (上)では、筆者が複数の困窮者団体と共同で東京都に提出した要望書に沿って、(A)不安定居住層の人々に対してどのような支援が必要かについて考えてきた。では、(B)現に住まいがない人=路上生活を送っている人に対してはどのような支援が必要だろうか。

新型コロナウイルス感染拡大に伴う路上ホームレス化の可能性が高い生活困窮者への支援強化についての緊急要望書(一部抜粋)

 (1) 民間支援団体と連携しながら巡回相談(アウトリーチ)を強化し、路上生活に至って間もない人々も含めた相談支援および活用できる支援の情報提供に努め、本人の意志を尊重した上で即日何らかの支援に繋がることができるよう図ること。
 (2) ホテルの空室や民間施設の借り上げ、または公共施設の利用による一時的な居所の確保、または宿泊料の補助による一時的な居所の確保ができるよう支援すること 。
 (3) 同時に丁寧なアセスメントにより支援ニーズを把握し、積極的に生活保護等の既存制度に繋げること。
 (4) 上記の支援の実績や聞き取った支援ニーズ等を分析・検証し、さらなる感染拡大時や感染収束後の景気悪化による生活困窮者増加に対応するための知見を得ること。

現に住まいを失っている人への支援

 結論から言えば基本的には前項で示した要望の(1)〜(4)と同様の支援で対応できると考えているが、そもそも防疫上の観点から路上生活者へも「住まい」の支援が必要な理由を述べておこう。

 巷では路上生活している人は野外にいるため感染しにくいなどという言説も目にする。しかし路上生活を送っている人の中には高齢者も多く、また過酷な生活の中で体調を崩している人も多いのが現状である。彼ら・彼女らは新型コロナウイルス感染の場合、重症化するおそれのある人々でもある。

 そして、確かに野外にいる分だけ「3つの密」に比べれば感染リスクは「マシ」かもしれない。しかし、いわば普通に体調を崩してしまうリスクは私達よりも遥かに高いと言える。路上生活を送っている人々が体調を崩した場合は、病院に入院するか、あるいは生活保護を受給することになる。このとき、その多くは相部屋の施設に入所することが常態化しているのである。これは特に低廉な家賃の住居の確保が難しい東京における現実であり、それゆえ防疫上の観点からも彼ら・彼女らを取り巻く環境改善が今必要だと言える。

 公的な施設は数が足りないため、多くは民間による「無料低額宿泊所」に入所することになるのだが、数人の相部屋や大部屋となることも少なくない。これもまた、生活保護行政の中に無料低額宿泊所に依存せざるを得ない構造的な問題によるものである(注1)。このような状況で健康リスクを抱えた元・路上生活の人たちが集団生活することはコロナ感染リスクも高めることになるのは容易に想像でき、それがネックとなって生活保護受給を諦める例もあると聞く(注2)

 実際にニューヨークでは、ホームレスの人々のためのシェルターで感染が起こったという例も報告されている(注3)

 こうした状況は社会全体での防疫を考える上でも避けるべきであり、大部屋のリスクは東京都の担当部局も同様の認識を有していた(注4)。しかしながら現時点でも具体的な対策は示されていない。更に、都からの通知によれば、原則的に各区の福祉事務所が相談を受けた際には前述のホテルではなく無料低額宿泊所等へ斡旋する運用となっている(注5)。窓口によってこうした大きな処遇格差があるのは、防疫上の観点からは合理性を見出すことができないだろう。その後、私たちは厚生労働省と都に新たな要望も提出した。ほかにも様々な方の働きかけにより、各区の窓口からでも先のホテルへ入所することができる運用へと変更された。ただし、適正に運用されていくかは注視していく必要があり、また現時点で大部屋で生活する人々への更なる対応も待たれるところである(4月18日公開時点)

 そもそも、防疫上の観点を差し置いても集団での生活は非常に難しい面があり、また貧困ビジネスの温床になるとして問題視されてきたのである。厚生労働省はこうした状況を改善すべく本年4月より新たな通知を発しているが、相部屋解消に関しては3年間の猶予措置期間を設けており、規制が間に合わなかったのが実情である。状況改善に取り組み個室化が図られた宿泊所もあり、また一定水準の支援を提供している宿泊所ももちろんある。しかし2〜3人部屋も依然として多く、10人以上の大部屋も存在する(注6)。繰り返しになるが貧困ビジネスの温床たるのは制度や運用面における構造的な問題なのである。

 ネットカフェ同様無料低額宿泊所についても、平時に十分な対策を怠ったツケが今一挙に顕在化しているのだ。そして、そのツケを払うことになるのは、弱い立場の人であることが常である。

 こうした路上生活の人々に対しても、必要な支援は先に挙げた(1)〜(4)が有効であろう。もちろん、積極的にアウトリーチを行う際には本人の意思を尊重すべきであるし、十分な受け入れの支援体制を整えた上で対応することが必要になる。ハウジング・ファーストは、もともと複雑な支援ニーズを持った長期に渡る路上生活者を対象としたモデルのため、親和性は高い。

 路上生活者であろうとなかろうと、プライバシーが確保された部屋で安心して住まい、公的扶助も利用しながら必要な支援を受け、働けるような健康状態や社会環境になれば働けばよいのだ。これは至極当然であり、誰もが安心して住まうために都市がとるべき姿勢ではないだろうか。

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筆者

北畠拓也

北畠拓也(きたばたけたくや) デモクラティック・デザイナー

1990年埼玉県生まれ。デモクラティック・デザインしゃりんの唄を主宰。東京工業大学環境・社会理工学院後期博士課程(休学中)。参加型まちづくりの実践や調査研究、アドボカシーに取り組む。2015年から18年まで市民団体ARCHの共同代表を務め、市民参加による夜間路上ホームレス調査「ストリートカウント」などホームレス問題の調査研究啓発に取り組む。2019年独立。 Web: https://www.sharin.work/  twitter: https://twitter.com/tkita_sharin  note: https://note.com/ddsharinnouta

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