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長い活動休止でスポーツはどう守られるか

試合の延期、無期限の活動休止から補償問題のステージへ

増島みどり スポーツライター

活動休止に入る直前に東京ヴェルディ・沢井直人選手をモデルに撮影したフィジカルコーチによる筋トレ動画。ユーチューブで選手たちに共有され、各自が自宅で実践している

 4月15日、Jリーグはテレビ会議での臨時理事会を開き、中断で大きな影響を受けている試合形式の変更を改めて正式決定した。

 今季はJ1とJ2とも降格はなく、J1、J2ともリーグ戦上位2クラブの自動昇格に。試合は日程の75%以上、かつ各クラブが主催試合50%を消化すれば成立する。もし満たせず不成立となった場合は、順位決定やこれに伴う昇格はなく、また表彰や賞金は配分されない。各クラブにとって、ひとまず「降格はない」など、試合方式の指針が明確になった点は安心材料のひとつになる。

 一方で長引く休止によって生じる経済的な損失について「予算を30~50%見直した場合、それを何に使えるかを(全部署で)考えようと号令をかけました」と、村井満チェアマン(60)はWEB会見で説明。これまで以上にコスト削減に踏み込んで予算、補償が話し合われた会議の様子を明かした。

 休業と補償は、社会全体の最大のテーマで、長引く休止で関わる雇用は危機に陥る。また市民生活において、幸福感、社会参加といった目標となるスポーツ、芸術、エンターテインメントが厳しい状況に瀕(ひん)してしまえば、たとえ新型コロナとの闘いを何とか乗り越えても、スポーツが日常生活、経済活動をいち早く取り戻す大きな推進力にはなれない。スポーツ界にはこうした使命感、危機感がある。

 世界が同時に危機に直面する事態で、各国はどんな状況を抱えているのだろう。

レイオフ制度でしのぐスペインリーグ、ドイツはプロよりアマチュア救済へ

 世界のサッカーリーグで、1試合平均で4万2000人以上と、唯一4万人を突破する観客動員数(18年欧州プロサッカー連盟発表)を誇るドイツ「ブンデスリーガ」は、ドイツ政府が感染拡大防止に8月31日まで全ての大規模イベントを禁止する決定をしたため、5月再開プランに新たなハードルが立ちはだかっている。

 ブンデスリーガの収入源の柱であるチケット売り上げが打撃を受けるなか、今後は無観客試合の開催を模索していく方針を固めている。無観客でも開催を検討する理由は今シーズン4期目の分配が予定される放映権料にある。ブンデスでは放映料は各クラブの成績を加味して配分され、この金額がクラブ経営上、担保にあてられているケースもあるという。4期目の支払いがない場合、破産する可能性のあるクラブがすでに存在するため、無観客でも再開したい意向だ。

 3月31日に行われた同リーグのビデオ会議では1、2部36クラブ中13クラブが経営危機にあると報告され、もし放送料の支払いがなかった場合、2部7クラブは5月末に破産する可能性があると、深刻な財務状況が明かされた。

 すでにトップクラブの「バイエルン」では、選手が20%の報酬を辞退しクラブを守る行動に出ているが、ドイツ内務省は「クラブ救済の連邦予算はない」(インターネットメディアのインタビューでツェシュネ内務省広報)と態度を明確に。クラブは基本的には自前の資金で補償を行う形だ。

 ドイツではむしろ、会員費や利用費で運営される各地域に根付いた民間スポーツクラブの破産が問題になっている。ドイツサッカー協会は4月4日に、「国や自治体の支援がなければ多くのスポーツクラブが生き残れない」(コッホ副会長)と危機感を露わにした。

 自治体独自のスポーツに対する取り組みは一部ですでに始まっている。日本人も多く滞在するデュッセルドルフを持つノルトライン=ヴェストファーレン州では、スポーツ全体の支援に総額1000万ユーロ(約11億7000万円)が用意され、従業員数に応じ、支援金が配分されるなど、困窮するクラブを支えようと動く。

 スペイン「ラ・リーガ」では、FCバルセロナの選手が70%の報酬カットに応じるなどしたが、レアルマドリード、アトレチコマドリードといったビッグクラブの経営状態とは違い、1部でも、かつて中村俊輔(横浜FC)が所属した「エスパニョール」、乾貴士(エイバル)が19年に在籍した「アラベス」で経営危機は深刻な状態と伝えられる。スペインは、今のところクラブも「ERTE」(エルタ)=レイオフ制度の申請で、国の一時支援を受けている。雇用を守るために一時解雇とし、その間、規模、職種に応じて約70%の給与を維持し、しのぐ形だ。

 スペインと同じく感染が拡大し医療崩壊が起きたイタリアでは、イタリアサッカー連盟のグラヴィーナ会長が政府に対し、5月31日までの税金の支払いと国営スポーツ施設のレンタル代の支払い免除、クラブスタッフへの手当金として600ユーロ(約7万円)を求める要望を提出した。感染拡大とともにこれら支援の実現は据え置かれたまま、5月末にカップ戦からスタートする案で検討を始めたと伝えられる。医療専門家を招き、選手のウイルス検査体制を整備する部門を設け、そこに政府とリーグが投資し再開を模索する。

 米国では大リーグ、NBAなど主要なプロスポーツ全体で約5400億円の損失が試算される(米経済誌フォーブス電子版)。トランプ大統領は経済活動の早期再開を16日に宣言しており、中でも「オープン・アワ・カントリー」と名付けた諮問委員会での提案は米社会でのスポーツの存在を明確に示すものだろう。メジャーリーグ、NBA、NFL、プロレス団体のUFCなど、主要なプロスポーツ全ての団体の首脳と会談し、「プロスポーツにおけるあらゆる雇用は守られるべきだ。まずは無観客で再開し、次に座席は(ソーシャルディスタンスの維持に)離して、それからコロナウイルスが去って満員にする」(FOXTV)と意向を明らかにした。大統領選対策がこれら発言の一部にあるとしても、経済活動再開に、人々の日常を象徴するスポーツを旗振り役に据えるのは、プロスポーツが生む莫大な経済活動、雇用、人々に与える高揚感を景気回復の材料としていかに重視しているかを表す。具体的な日程は決まっていないが、大リーグは全30球団で、球団、球場従業員らの雇用補償に100万ドル(約1億700万円)の寄付を行った。

スポーツの補償基金など、新制度の議論熟成を

 Jリーグは、全国56クラブが申請可能な「リーグ戦安定開催資金」の特別措置を決めた。申請を6月末までとし、返済期間は3年に延長し、制裁は科さない。J1クラブは3.5億円、J2は1.5億円、J3は3000万円を上限に融資を受けられる。しかし殺到する事態になれば全てに即時対応するのは難しくなるだろう。

 こうした状況下で、スポーツ庁は、新型コロナウイルス感染拡大で事業に影響を受けるスポーツ関係者への支援策をまとめた。延期された東京オリンピック・パラリンピックを迎えるうえで「スポーツ界の破綻は食い止めなければならないと強い気持ちで臨む」と鈴木大地長官は話す。背景には、スポーツ全体がここで体力を失ってしまっては、五輪にもつながらないという危惧がある。

 文化芸術分野を含め、購入済みのチケットを払い戻さなかった場合は、これを寄付として税優遇する新制度を新設したほか、スポーツ団体の資金繰り支援窓口も設置。Jリーグでも、各クラブの本拠地である自治体の支援策に加え、スポーツ庁の支援など、経営難に対する支援窓口、基金などを整理しているという。

 予想ができなかったウイルスによる感染拡大と経済危機のなか、スポーツにも今後、独自の補償制度や互いをサポートする制度の必要性が浮き彫りとなった。

 ドイツでは、DOSB(ドイツオリンピックスポーツ連盟)が、早くも「スポーツの多様性を守る連帯基金」を設立し、クラブ、スポーツに関係する雇用の救済に資金調達を始めた。

 「スポーツだけではなく芸術も含め、公共の文化、私たちの社会を豊かにするために存在するそうした活動を守るための政策を今後検討していく段階なのではないか」

 村井チェアマンは臨時理事会後の会見で、新たな仕組みを検討する方向性について、こんな表現で言及した。スポーツが失われた非日常は、改めて、身近にスポーツのある日々、スポーツをし、観戦し、参加する喜びを見直す機会にもつながるはずだ。
(翻訳協力 ドイツ語S・Kizaki、イタリア語C・Kuraishi、スペイン語H・Suzuki)