居場所を失う「外出せざるを得ない」若者たち
2020年04月21日
私が代表を務めるNPOあなたのいばしょでは、24時間365日、年齢や性別を問わず、誰でも無料・匿名で利用できるチャット相談窓口を運営している。誰かに頼りたくても頼れない、話したくても話せないという「望まない孤独」によって苦しんでいる人が、「信頼できる人」にいつでも確実・簡単にアクセスできる窓口だ。
私自身、ひとり親家庭で育ち、家庭内トラブル、不登校など様々な経験をしてきた。頼れる人がおらず、常に「孤独」で、自らの人生に希望を失い、どうやって死ねるかを常に考えていた時期もあった。
しかし、私にとって人生で初めての信頼できる人となる、高校で3年間担任だった先生と「奇跡的」に出会えたことで、私の人生は大きく好転した。何か問題が起きても頼れるという安心感を得ることができたのだ。その安心感は、家庭の問題などを乗り越える力をくれ、大学進学を大きく後押ししてくれた。私が現在、大学生でいられるのは、その先生の存在によるところが大きい。
しかし現在、過去の私のように、頼れる人がいないことによって様々な問題を抱えて苦しんでいる人が、私にとっての先生のような、「信頼できる人」に出会えるとは限らない。そうした人に巡り合えるかは「運」であり、「奇跡」なのだ。
私はそれを「奇跡」ではなく、問題を抱えて苦しんでいる時に誰もが「確実」に信頼できる人にアクセスできるような社会にしていきたいと思っている。過去に悲観的になるのではなく、自分の過去と同じ状況にいる人たちに手を差し伸べていくことが「信頼できる人」を得た私の使命だと考えるからだ。
そうした想いで設立したのが、この相談窓口である。
新型コロナウイルスの影響で、私の過去と似たような境遇にいる学生や若者が苦境に立たされている。実際に寄せられた相談をもとに、今社会で学生や若者に何が起きているかお伝えする。
全国的に外出自粛が要請されている中で、繁華街などに学生や若者が集まっており、感染拡大の要因になっているのではないかとの意見がある。
週刊誌「FRIDAY」の3月27日・4月3日号には、「ヒマな中高生がいっぱい! 渋谷・原宿で『クラスター感染者』量産」という記事が掲載された。記事内には「新型コロナウイルスの感染拡大で学校が休校となり、ヒマを持て余した中高生が繁華街に押し寄せている。学校からは不要不急の外出を控えるように言われているものの、言いつけを守る中高生はあまりいない」と書かれている。
また、政府インターネットテレビが4月9日に公開した「3つの密を避けよう!」という広報動画には、若者が外出をしているシーンのみが描かれ、まるで外出をしている若者が「感染を拡大させている犯人」のような印象を受ける。
このような、外出している学生や若者を「けしからん」とするような社会的風潮に対し、「外出せざるを得ない学生や若者」の存在に目を向けて欲しい。
学生や若者に限らず、娯楽目的で外出したり、「家にいるのに飽きた」などの理由で繁華街に繰り出したりする者がいることは事実だろう。そのような不要不急の外出は控えるべきである。
しかし、外出をしている学生や若者の中には、虐待や暴力、親子不和、家庭内トラブルなどによって、家にいることが安全でなかったり、家にいることが困難な状況にあったりして、外出せざるを得ない者もいる。学生や若者がヒマを持て余し、新型コロナウイルスの危険性を理解せずに外出しているとは限らないのだ。
各地で外出自粛が始まった3月末以降、相談が急増しており、1日に200件を超える相談が寄せられる日もある。緊急事態宣言が出された4月7日以降は、新型コロナウイルス関連の相談が全相談の8割以上を占めており、「家にいることが危険な状態にある学生や若者」からの相談も増えている。
4月7日から13日までの1週間に寄せられた「コロナ」(「……ウイルス」も含む)もしくは「外出自粛」(「自粛」単体も含む)という単語のいずれか、もしくはその両方が含まれた相談の中で、「虐待」「暴力」という単語が合わせて使用された相談は52件で、前の週の14件から大幅に増加した。この52件の相談者の平均年齢は17.4歳と、多くが未成年からの相談だった。
今後、人々の中に外出自粛のストレスが溜まっていくにつれて、「新たに」暴力や虐待を受ける人が増える可能性もある。しかし、現段階で「あなたのいばしょチャット相談」に「虐待や暴力を受けており、家にいられない」などと相談してくれる学生や若者の多くは、新型コロナウイルスの感染が拡大する「以前」から、「虐待」や「暴力」を受けていたり、家庭内トラブルを抱えていたりする人たちだ。
彼/彼女らはこれまで、家以外の場所や他者との関係に居場所や逃げ場、心の拠り所を創り、問題を抱え苦しみながらも、何とか命をつないできた。だが、彼/彼女らの居場所や逃げ場であった学校や図書館などの公共施設、カラオケ、ネットカフェなどは現在、軒並み休校・休業している。また、学校の先生やスクールカウンセラー、友人などの関係が心の拠り所となっていた場合も多いが、そうした心の拠り所にアクセスすることも困難になった。
「アルバイト」も居場所や逃げ場の1つだった。家が安全ではなかったり、家にいることが困難だったりする学生や若者には、家にいることを避ける目的でアルバイトをしていた者が多くいる。しかし現在は多くの店舗や学習塾などが休業や縮小営業しているため、アルバイトができない状況にある。
多くの学生や若者が、アルバイトができないことにより「収入」を失い、苦しい状況にあるが、虐待や暴力などによって家にいることが安全ではなかったり、困難だったりする学生・若者は、「収入」に加えて、「居場所・逃げ場」も失っているのだ。
また、居場所や逃げ場は元々ないが、親が仕事で家を空けている時間が多く、暴力や虐待を受けることがあっても、何とか耐えてこられた人もいる。しかし、親の仕事が在宅ワークになり、それまで家の外に居場所や逃げ場があるわけでもなかったため、孤立してしまう事例もある。
母子家庭の10代の男性からは、「普段は母親が仕事で家にいないが、母親が在宅勤務になり一緒にいるしかない。家にいると、母親から暴力を受けそうだ。過去に何度も暴力を振るわれている」といった相談があった。
彼/彼女らは、「家も安全ではない、家に居場所がない」状況下で、さらに外部の居場所や逃げ場、心の拠り所まで奪われ、完全に孤立してしまっている。
孤立した彼/彼女らの多くが行き着く先は、SNSである。
TwitterなどのSNSで「神待ち」などのハッシュタグを付けて、見知らぬ人とコンタクトを取り、その人の家に泊まる学生や若者がいることは以前から指摘されている。
しかし、学校やアルバイトなどで辛うじて家の外に居場所や逃げ場があり、これまで「神待ち」などを行ってこなかった学生や若者が、そうした場を失ったことによって、見知らぬ人に頼らざるを得ない状況に陥っている。こうした行為をすれば、援助交際などの児童売春や性犯罪に巻き込まれる可能性もある。
緊急事態宣言が出された4月7日以降、「あなたのいばしょチャット相談」には、「母に出て行けと言われ、行くところがなく、男の人が好きな人を探して援助交際しました」(10代/男性)という相談も寄せられた。私たちの窓口以外にも、Twitterには「コロナでネットカフェ閉まって泊まるとこない 誰か泊めて」という投稿もあり、早急に対策を講じる必要がある。
私たちの窓口に寄せられる「援助交際」という単語が含まれる相談の9割は女性からですが、援助交際などは少女や女性だけの問題ではないにも関わらず、少年や男性への支援が余りにも不足しているため、意図的に男性からの相談を紹介しました。
今すぐできる施策もある。例えば、客室数が200室以上の大規模なホテルに対し、客室数の1%を虐待や暴力によって家にいられない学生や若者、DV被害者のためのシェルターとして開放してもらうことを要請し、費用は政府が全額負担すれば良い。大規模なホテルに限らず、外出自粛によって閉業の危機に陥っている宿泊施設は数多くあるため、シェルターとして客室を提供することで政府から補助を受けられるのであれば、喜んで客室を提供してくれる宿泊施設は多いはずだ。
シェルター利用の申し込みは、私たちのような相談窓口を通じて行えば、窓口が事態の深刻度や優先度を判断することができるため、本当に支援を必要としている人に利用してもらうことが可能になる。家にいることができないために繁華街などに繰り出したり、インターネットを通じて見知らぬ人の家に泊まったりするよりも、客室内で外出自粛してもらった方が感染のリスクも低下する。また支援団体が所在地を把握できるため、継続的な支援も行いやすい。5000万の全世帯に等しくマスクを配布することができる政府なら、このような施策を実施することは難しくはないはずだ。
多くの支援団体は人員的にも予算的にも、そして精神的にもギリギリの状態だ。しかし最後の砦として、これからも活動を継続していく気持ちに変わりはない。これは「あなたのいばしょ」に限らず、他の団体もそうであろう。
家が安全ではなかったり、家に居場所がなかったりする人を社会で孤立させず、命を救うために支援を行うのは、政府や行政の役目であり責任だ。しかし、このような状況下で、政府の姿勢や対応を批判し続けるだけでは、何も生まれないのも事実である。先述したように支援団体の多くはギリギリの状態だが、例にあげたような形(ホテルをシェルターとして活用し、申し込みは支援団体が窓口となる)で連携を取って対応にあたることが「今なら」辛うじて可能だ。
今後、外出自粛などが長期化することによって、DVや虐待の相談が増えたり、自粛のストレスでメンタルに不調をきたしたりする人の増加が予想されており、いつ支援団体が機能不全に陥るか分からない。民間の団体との連携を含んだ支援策を実施するなら、今しかないのだ。
有料会員の方はログインページに進み、朝日新聞デジタルのIDとパスワードでログインしてください
一部の記事は有料会員以外の方もログインせずに全文を閲覧できます。
ご利用方法はアーカイブトップでご確認ください
朝日新聞デジタルの言論サイトRe:Ron(リロン)もご覧ください