大空幸星(おおぞら こうき) NPO法人あなたのいばしょ理事長・慶應義塾大学総合政策学部生
1998年、愛媛県松山市生まれ。「信頼できる人に気軽・簡単・確実にアクセスできる社会の実現」と「望まない孤独の根絶」を目的に、あなたのいばしょを設立。孤独対策、若者の社会参画をテーマに活動している。
※プロフィールは原則として、論座に最後に執筆した当時のものです
居場所を失う「外出せざるを得ない」若者たち
各地で外出自粛が始まった3月末以降、相談が急増しており、1日に200件を超える相談が寄せられる日もある。緊急事態宣言が出された4月7日以降は、新型コロナウイルス関連の相談が全相談の8割以上を占めており、「家にいることが危険な状態にある学生や若者」からの相談も増えている。
4月7日から13日までの1週間に寄せられた「コロナ」(「……ウイルス」も含む)もしくは「外出自粛」(「自粛」単体も含む)という単語のいずれか、もしくはその両方が含まれた相談の中で、「虐待」「暴力」という単語が合わせて使用された相談は52件で、前の週の14件から大幅に増加した。この52件の相談者の平均年齢は17.4歳と、多くが未成年からの相談だった。
今後、人々の中に外出自粛のストレスが溜まっていくにつれて、「新たに」暴力や虐待を受ける人が増える可能性もある。しかし、現段階で「あなたのいばしょチャット相談」に「虐待や暴力を受けており、家にいられない」などと相談してくれる学生や若者の多くは、新型コロナウイルスの感染が拡大する「以前」から、「虐待」や「暴力」を受けていたり、家庭内トラブルを抱えていたりする人たちだ。
彼/彼女らはこれまで、家以外の場所や他者との関係に居場所や逃げ場、心の拠り所を創り、問題を抱え苦しみながらも、何とか命をつないできた。だが、彼/彼女らの居場所や逃げ場であった学校や図書館などの公共施設、カラオケ、ネットカフェなどは現在、軒並み休校・休業している。また、学校の先生やスクールカウンセラー、友人などの関係が心の拠り所となっていた場合も多いが、そうした心の拠り所にアクセスすることも困難になった。
「アルバイト」も居場所や逃げ場の1つだった。家が安全ではなかったり、家にいることが困難だったりする学生や若者には、家にいることを避ける目的でアルバイトをしていた者が多くいる。しかし現在は多くの店舗や学習塾などが休業や縮小営業しているため、アルバイトができない状況にある。
多くの学生や若者が、アルバイトができないことにより「収入」を失い、苦しい状況にあるが、虐待や暴力などによって家にいることが安全ではなかったり、困難だったりする学生・若者は、「収入」に加えて、「居場所・逃げ場」も失っているのだ。
また、居場所や逃げ場は元々ないが、親が仕事で家を空けている時間が多く、暴力や虐待を受けることがあっても、何とか耐えてこられた人もいる。しかし、親の仕事が在宅ワークになり、それまで家の外に居場所や逃げ場があるわけでもなかったため、孤立してしまう事例もある。
母子家庭の10代の男性からは、「普段は母親が仕事で家にいないが、母親が在宅勤務になり一緒にいるしかない。家にいると、母親から暴力を受けそうだ。過去に何度も暴力を振るわれている」といった相談があった。
彼/彼女らは、「家も安全ではない、家に居場所がない」状況下で、さらに外部の居場所や逃げ場、心の拠り所まで奪われ、完全に孤立してしまっている。
孤立した彼/彼女らの多くが行き着く先は、SNSである。
TwitterなどのSNSで「神待ち」などのハッシュタグを付けて、見知らぬ人とコンタクトを取り、その人の家に泊まる学生や若者がいることは以前から指摘されている。
しかし、学校やアルバイトなどで辛うじて家の外に居場所や逃げ場があり、これまで「神待ち」などを行ってこなかった学生や若者が、そうした場を失ったことによって、見知らぬ人に頼らざるを得ない状況に陥っている。こうした行為をすれば、援助交際などの児童売春や性犯罪に巻き込まれる可能性もある。
緊急事態宣言が出された4月7日以降、「あなたのいばしょチャット相談」には、「母に出て行けと言われ、行くところがなく、男の人が好きな人を探して援助交際しました」(10代/男性)という相談も寄せられた。私たちの窓口以外にも、Twitterには「コロナでネットカフェ閉まって泊まるとこない 誰か泊めて」という投稿もあり、早急に対策を講じる必要がある。
私たちの窓口に寄せられる「援助交際」という単語が含まれる相談の9割は女性からですが、援助交際などは少女や女性だけの問題ではないにも関わらず、少年や男性への支援が余りにも不足しているため、意図的に男性からの相談を紹介しました。
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