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「万葉集」学者がたどる生と死をめぐる心性の歴史

老いた母を7年のあいだ介護して見送った息子が考えた死に関すること

上野誠 奈良大学文学部教授(万葉文化論)

鮮烈な「湯灌」の記憶

 もう一つの鮮烈なのは、「湯灌(ゆかん)」の記憶だ。

 郷里の朝倉市では、当時は家々で「湯灌」ということをしていた。つまり、死者を納棺する前に、お風呂に入れるのだ。しかも、それは、妻や娘の仕事であった。男たちは、知っていて知らぬふりのふて寝を決め込むのであった。

 13歳というのは微妙な年齢で、まだ一人前の男とは認められないのである。だから、男衆の数には入れてもらえないのである。そこで、祖母と母とを手伝って、私は遺体を背負って風呂まで運ぶことになった。

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筆者

上野誠

上野誠(うえの・まこと) 奈良大学文学部教授(万葉文化論)

1960年、福岡生まれ。国学院大学大学院文学研究科博士課程満期退学。博士(文学)。奈良大学文学部教授。第12回日本民俗学会研究奨励賞、第15回上代文学会賞、第7回角川財団学芸賞、第20回奈良新聞文化賞、第12回立命館白川静記念東洋文字文化賞受賞。『古代日本の文芸空間』(雄山閣出版)、『魂の古代学――問いつづける折口信夫』(新潮選書)、『万葉挽歌のこころ――夢と死の古代学』(角川学芸出版)、『折口信夫的思考-越境する民俗学者-』(2018年、青土社)、『万葉文化論』(2018年、ミネルヴァ書房)など著書多数。万葉文化論の立場から、歴史学・民俗学・考古学などの研究を応用した『万葉集』の新しい読み方を提案。近年執筆したオペラの脚本も好評を博している。