東京都に「支援を届ける意思」はあるのか?
2020年04月28日
「ネットカフェ休業により、住む場所がなくなってしまいました」
「携帯も止められ不安でいっぱいです。もう死んだ方が楽になれるのかなと思ってしまいます」
「住む家もお金もないです。そもそも新しい感染症があることも先々週知りました。マスク買うお金ないし、そもそも売ってない。人生詰んだと思ってます」
「ネットカフェ暮らしでしたが、営業休止で寝泊まりする場所がなくなり、また仕事も職場が自粛すると共に退職扱いになり、所持金がほぼありません」
「お金がなく、携帯もフリーWi-Fiのある場所でしか使えず、野宿です」
これらは、私が代表理事を務める一般社団法人つくろい東京ファンドが実施している緊急のメール相談フォームに寄せられたSOSのごく一部である。
東京都では4月8日に緊急事態宣言が発令され、11日にはネットカフェにも休業の要請が行われた。
都内のネットカフェ等に寝泊まりをする住居喪失者は約4000人(2017年、東京都調査)と推計されているが、この人たちの多くが居場所を奪われる事態が生じたのである。
4月7日の夜に私たちが開設した緊急のメールフォームに寄せられた相談は、この半月で100件を超えた。
ネットカフェに寝泊まりをしている人の中には、日払い、週払い等の不安定な仕事に従事しているワーキングプアが多いが、建築土木の現場や飲食店などの仕事はコロナの影響で3月頃から激減しており、緊急事態宣言が出る前から収入減少に苦しんでいる人が多い。
そこに追い打ちをかけるような形で、彼ら彼女らの仮の宿であるネットカフェが閉まってしまったのである。
メール相談という形態をとったのは、電話代が払えず、携帯電話が止まっている人が多いだろう、と考えたからである。予想通り、相談者の多くは電話が使えない状態にあり、フリーWi-Fiのあるファストフード店などに行き、メールでSOSを発信してきていた。所持金が数百円、数十円しかなく、すでに路上生活になっているという人も少なくない。
意外だったのは、女性の相談が全体の約2割を占めたことである。その中には、家庭内での虐待やDV等からの避難するための場所としてネットカフェを利用している人も少なくない。
東京都の住居喪失者の調査では、女性の占める割合は2.5%と非常に低い数値にとどまっていた。女性の場合は、自分がネットカフェ生活をおくっていることを周りに知られること自体、大きなリスクになるので、行政のアンケートにも本当のことを答えていなかった可能性があるのではないかと、私は推察している。
緊急事態宣言が発令されれば、ネットカフェ生活者の多くが路上生活へと追いやられる、という事態が発生することは予期できていた。
こうした事態を見越し、私たちホームレス支援活動に関わる団体・個人は、4月3日、東京都に対して緊急要望書を提出。住まいを失った生活困窮者に対して、ホテルの借り上げ等、緊急の支援策を実施することを求めていた。
この要望書の内容を踏まえる形で、小池百合子都知事は4月6日の記者会見で、住居喪失者への一時住居の整備を行うと表明。都の補正予算に緊急対策費約12億円を計上したと発表した。
この発表に私たちは喜んだが、それはぬか喜びに過ぎなかったと後で判明することになる。
東京都はネットカフェの休業により居場所を失った人たちに対して、ビジネスホテルの居室の提供を行っており、現時点でビジネスホテルに入居できた人は500人を超えている。
平常時に比べると、短期間に多くの人を支援したと言えなくもないが、これは約4000人のネットカフェ生活者の1割強にしかならない数字である。では、残りの人たちはどこに行ったのだろうか。
その答えは、「路上」と「他地域」と「営業を続けているネットカフェ」である。
3つ目から説明すると、実はまだ多くの人たちが営業を続けているネットカフェに滞在している。一部の大手ネットカフェチェーンが、「ウイルス対策は万全」と言いながら営業を続けているからだ。だが、これらの店舗で感染が広がらない保証はどこにもない。
もし感染が発覚して、チェーン店が一斉に閉まることになれば、それらの店にいた人たちが路上へと追いやられる「第二波」が来るであろう。
最も私が問題視しているのは、都が支援策を講じながら、路上生活に追いやられたり、他地域に流出したりした人が出たことだ。
つくろい東京ファンドの緊急相談でも、日が経つにつれ、「路上生活になったばかり」、「野宿4日目」という方や、関西や北関東に移動した方からの相談が増えていった。その人数を調べることはできないが、かなりの数にのぼるであろうと推察している。
なぜ、このような事態が生じてしまったのだろうか。
私は、行政機関に「必要としている人に支援を届けようとする意志」が欠如していたことが最大の問題であったと考えている。
東京都は当初、緊急宿泊支援の対象を「都内に6カ月以上、滞在している人」に限定していた。居室提供の上限も500室と設定していた。
東京都の窓口では、相談者が「都内に6カ月以上、滞在している」ことを証明するため、ネットカフェの領収書や医療機関の診察券、Suicaの履歴等を提示することを求められた。その結果、私たちのところにも「相談に行ったけど、断られた」と言う人が続出した。
このことを私たちが批判すると、都は4月10日より、緊急宿泊支援の対象を拡大し、「都内6カ月未満」の人も受け入れると方針転換をした。緊急宿泊支援の枠も500室で終わりにするのではなく、順次、増やすとしている。
ただ、わかりにくいのは、「6カ月未満」の人については東京都が設置した窓口ではなく、各区・市の生活保護及び生活困窮者自立支援制度の窓口が支援を担当するとしたことだ。
「6カ月以上」の人と「6カ月未満」の人を別々の窓口や枠組みで支援をするという、当事者にとっては、非常に使いにくい仕組みを作ってしまったのである。
そのため、相談に行った人の中で、窓口をたらい回しにされる人が続出した。
また、「6カ月未満」で、各区・市に生活保護を申請した人がビジネスホテルではなく、相部屋の民間施設に誘導されるという問題も発生した。
以下は、4月13日に都内のある区で生活保護を申請した男性から私が受け取ったメールの一部である。
今回改めて生活保護申請をした際に住居の事も相談してネットカフェ難民などへ支援している都が用意したホテルやマンション、一時宿泊施設に生活保護申請の結果が出るまで宿泊先としてご案内お願いしたいと申し出しました。
そうしたら、〇〇区の方に宿泊施設が空きあり、、すぐ埋まってしまう可能性が高いので、今日このまま行けるならご案内します。
と説明をされたので、、お願いします!これで当面の宿泊先の不安は解消されたと思って安心していました。
宿泊施設の詳細を確認しようと詳しい住所含めその他、気になる点などを確認依頼をしたら、詳しい内容は分かりかねます、、ですが施設担当者がこれからお迎えに役所まで来られるので、宿泊所先にて詳細など詳しい事は説明受けてください。
ここまでは、助かった、、これで当面は安心できると心安らいでいたのですが。。
宿泊先に到着するや否や、契約書に署名捺印と宿泊所の重要説明事項の説明を受け、、今までの安心が、急に不安でしかなくなってしまいました。
その内容というのも、案内された宿泊先は一時宿泊施設ではなく、無料低額宿泊所という施設で契約書を確認すると初期費用や宿泊費、電気光熱費、共益費、食費【1日2食】もろもろの費用がかかるという事。
【約10万円程】
それに2人部屋と説明され、、電気光熱費などが1人部屋と変わらぬ金額帯や不透明点が多々あります。
また施設には規則があり、外出、外泊は申請が必要や施設の掃除当番があるや、、食事の時間や入浴、洗濯においても規則時間内で行ってくださいとの事。。
挙げ句は、10平米も満たない部屋にベッドが設置されている2人部屋での生活。。
施設の全入居者は約15名程、、
70代以上の方々ばかり。
コロナウイルスの緊急事態宣言にて、感染を拡大させない為に自粛を国民が意識している状況下で、、施設内では誰もマスクもしておらず咳き込んでいる方もいらっしゃいます、、こういった無料低額宿泊所の入所者でのクラスターが起きてもおかしくありません。。
その他、共有部分は風呂、トイレも共同ですし。
宿泊先に着くや否や、このような事を説明され訳も分からないまま契約書に署名捺印してしまい。
1日、過ごしてみましたが今すぐにでもここから出たい気持ちでいっぱいです。。。
(中略)
ここに案内された事で先行きが真っ暗で、、贅沢は言いませんが、あまりにも不衛生すぎる室内。
食事も一口も手を付けてません、、、
昨日も一睡も出来ませんでした。。
明日にでも飛び出してしまいたいぐらいのこのような環境から脱するにはどうしたら良いのでしょうか??
(メールの引用終わり)
このメールを送ってくれた男性については、つくろい東京ファンドのスタッフが福祉事務所に同行して交渉し、ビジネスホテルに移ることができた。なお、この方が入れられた部屋は2人部屋だったが、福祉事務所が紹介をする民間の施設の中には、10人部屋、20人部屋のところもある。
こうした区・市の対応の背景には、東京都の保護課が4月10日付で各区・市に出した事務連絡があった。
その事務連絡には、生活保護の申請者・利用者には「第一義的に」民間の施設を活用するようにという内容が盛り込まれていたのである。
私たちや様々な政党・政治家らが都や国に働きかけた結果、4月17日、厚生労働省は、「新たに居住が不安定な方の居所の提供、紹介等が必要となった場合には、やむを得ない場合を除き個室の利用を促すこと、また、当該者の健康状態等に応じて衛生管理体制が整った居所を案内する等の配慮をお願いしたい」という内容の事務連絡を各自治体に発出した。
東京都の保護課も、厚労省の事務連絡を受けて、方針転換。17日夕方、各区・市に「原則、個室対応」を伝える新たな事務連絡を出した。
これにより、少なくとも新規の相談者については、個室対応とするという原則が確立したのである。
多くの方々が声をあげてくださったおかげで、「新型コロナウイルスの感染が拡大する中、相部屋の施設に誘導するのをやめさせる」という当たり前の原則をようやく確立させることができたのである。
そして、4月22日、都は「6カ月以上」の人と「6カ月未満」の人を分けて対応するという方針を見直し、「6カ月未満」の人も都の窓口で対応すると表明した。
都の緊急宿泊支援をめぐる混乱は、事業開始から2週間が経って、ようやく収まったのである。
だが、この2週間の遅れは、当事者にとっては致命的な意味を持っていた。その間に所持金が尽き、路上生活に追いやられる人が続出したからである。交通費を持っている人の多くは、ネットカフェが休業になっていない地方都市に移動した。
東京都の姿勢を象徴することとして、都が現在に至るまで緊急宿泊支援に関する広報をほとんど行っていないという問題もある。SNS等で、当事者に対して相談に行くように呼びかけているのは、私たち民間の支援者と一部の都議会議員・区議会議員だけであり、東京都広報課や小池都知事のSNSアカウントは沈黙したままだ。
当初、「都内6カ月以上」という独自のルールにこだわっていたのも、なるべくなら多くの人に相談に来てほしくないという姿勢の現れだろう。
東京都には「必要としている人に支援を届けようとする意志」が欠けているのではないだろうか。私たちの疑念は深まっている。
4月6日の小池都知事の記者会見での発言は、世論向けのパフォーマンスに過ぎなかったと言われたくなければ、今からでも積極的な広報やアウトリーチをおこない、路頭に迷っている人たちに手を差し伸べる努力をすべきである。
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