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オリンピック以上に困難なパラリンピック延期に独自の課題 コロナ対策の準備は

増島みどり スポーツライター

感染者が出ないという希望的観測は、パラリンピックでは大きなリスクに

 16年リオデジャネイロパラリンピック陸上の女子走り幅跳び全盲クラスで8位に入賞した高田千明(35=ほけんの窓口)と、彼女の跳躍の才能を見抜き走り幅跳びに転向させた大森盛一(47=アスリートフォレストトラッククラブ代表)はGWに入り、やっとトレーニングのリズムをつかんだと明かす。

 利用していた都内のグラウンドは閉鎖されたため、技術的なトレーニングは行えず、延期でのメンタルの落ち込みにあえて率直に向き合い、切り替えるのに1カ月を要した。現在は2人の自宅に近い公園で週2~3回、園内の平坦な場所で1時間弱、一般の人々の散歩や運動のレベルで何とか基礎体力の維持をするのが精いっぱいだという。

 大森氏は、96年アトランタオリンピックに出場し、今も更新されていない陸上男子1600㍍リレーの日本記録を樹立し5位と、史上最高位を獲得。引退後、あるクラブで高田と出会い、パラスポーツには欠かせないサポート役の「伴走者」(100㍍)と「コーラー」(幅跳びの際に踏み切り位置を声がけ、拍手で伝える)も務めている。

 「一般的にオリンピックの開始時期について議論されますが、アスリート、指導者は4年で力を使い切るために、終わる日を想定しスケジュールを綿密に組む。延期への対応は本当に難しいですし、今は、とにかく技術や気持ちを研ぎ澄まさないように、意図的にペースを落としています」

 オリンピック出場経験を持つだけに、ピーキングには高田も全幅の信頼を置き、事実順調だった。2人の場合は幸い練習環境の激変はないものの、それでも新型コロナウイルスの感染拡大への危機感は常に頭から消えない。例年インフルエンザにもかかりやすいという高田が「密」にならないよう、また視聴覚障害者には何かを触って得る情報収集が重要となるため、練習の送迎、健康管理に自分のこと以上に気遣う。パラアスリートには基礎的な疾患を抱えて競技する者も多く、特に、脳性まひ、けい髄損傷など呼吸機能、肺炎に注意しなくてはならない。今年3月の東京マラソンの際には、エリートの車いすランナーたちから先に、感染への不安を理由に渡航を中止するなど欠場者が出た。重症化のリスクを前提としたからだった。

 新型コロナウイルス対策でスポーツ界へのアドバイスを行うある専門家は、こうした不安を背景に、「オリンピックと同時開催といっても、パラリンピックには厳格な入場制限や、場合によっては無観客試合など、アスリートを守る対策がより重要になる」とも指摘する。

 大森氏は、「パラリンピックでは出場選手たちの既往症を含め、感染対策がどこまで細かく準備されているか、選手、支える側も懸念しています」と話す。組織委員会の武藤敏郎事務総長(76)は、コロナ対策に特化した部門の設置について「現時点では、政府、関係省庁の指導のもとで行う」(4月理事会後の会見)と、具体的な検討はしていないと話したが、新型コロナに人類が勝つ前に、まずはどう闘い、防御するかのほうが先決だ。


筆者

増島みどり

増島みどり(ますじま・みどり) スポーツライター

1961年生まれ。学習院大卒。84年、日刊スポーツ新聞に入社、アマチュアスポーツ、プロ野球・巨人、サッカーなどを担当し、97年からフリー。88年のソウルを皮切りに夏季、冬季の五輪やサッカーW杯、各競技の世界選手権を現地で取材。98年W杯フランス大会に出場した代表選手のインタビューをまとめた『6月の軌跡』(ミズノスポーツライター賞)、中田英寿のドキュメント『In his Times』、近著の『ゆだねて束ねる――ザッケローニの仕事』など著書多数。

※プロフィールは原則として、論座に最後に執筆した当時のものです

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