コロナ時代を生き抜く、アーティスト的生き方
新型コロナウイルスは、私たちの生存活動の全てにおいて負の連鎖を及ぼしている。アートシーンもその中の一つだ。アートは私たちの精神を豊かにするために必要不可欠な存在であるが、そのアートに触れる機会を根底から奪おうとしている。
美術回路とは
アートパワーを取り入れたビジネス創造を支援するプロジェクトチーム。 先進的企業の事例研究や定量調査を通じて、 アートをビジネスに導入する理論と実践法を体系化した『アート・イン・ビジネス −ビジネスに効くアートの力–』(有斐閣)を刊行中。
美術館における展覧会は、人が密集するという理由で延期され、「地域アート」と呼ばれる地域活性化を目的としたアートイベントの開催も見直されるだろう。これまで自治体による芸術文化支援活動の多くが、こうした「地域アート」に集中していたために、今後はどのような支援活動が必要なのか再考されていくだろうが、経済活動への支援が優先され、芸術文化への支援活動の優先順位が低下する危険性がある。
「新型コロナウイルスによる芸術文化活動への影響に関するアンケート結果」(4月15日、ケイスリー株式会社)によると、回答者(3357人)のうち8割以上が活動停止に伴う収入減の不安を抱えていることがわかる。その多くが組織に所属しないフリーランスで、短期的には生活のための早急な金銭面での支援を、中長期的には芸術活動再開のためのサポートを求めている。
また、アートマーケットも沈静化している。サザビーズやクリスティーズといった有名オークション会社のセール開催や、アートフェア東京、バーゼルなどの代表的なアートフェアも大部分が延期や中止、もしくはオンライン上での開催となり、大幅な取扱高のダウンが予想される。さらに株式と同様に、金融資産としてのアート相場も先行きが不透明にあるといえる。
このように甚大なダメージを受けているアートシーンだが、目の前の危機を乗り越えようとする新しい取り組みも始まっている。こうした取り組みはコロナ危機以前にも存在したものもあるが、今後広まっていきそうな兆しも見られる。
一つ目は「アート体験のリモート化」である。企画されていた展覧会を動画やキュレーターによる解説などで伝えようという動きである。また企画展に限らず、美術館の代表的なコレクションを館長自らが解説しようとする動画も出現している。
確かに実物を体験する感動を得ることは難しいが、今後はVR(バーチャルリアリティー)などの技術を活用したりすることで、リアル以上の鑑賞体験を追求する動きが活性化するだろう。またこれまでの展覧会は来場客数をKPI(重要業績評価指標)においていたが、リモート企画へのアクセス数も有力なKPIになる。これまで展覧会に忙しくて来訪することができなかった新しい顧客層を生み出す可能性が出てくる。
しかし、新しいアート体験コンテンツを創造するには、これまで以上に費用がかかるため、共通の仕組みを開発し、それを美術館同士で活用するという動きも出るだろう。また入館料だけではない新しいマネタイズの仕組みを作ることも必要になってくる。
「アート体験のリモート化」の事象は、以下の3カテゴリーで分類できる。
A 作家や学芸員との、ダイレクト・アクセス
B 自宅で展覧会
C オンラインでの鑑賞と購入