2020年05月02日
日本社会は“半減期”が長い社会になった。
半減期とは放射性物質の量が半分になるまでの期間だ。東日本大震災の時に、誰もが痛みを伴いつつ覚えた語彙のひとつだろう。福島第一原発の事故でセシウム137という放射性物質が大量に放出された時、専門家はその半減期が約30.1年だと述べていた。それは30.1年のうちに約半分のセシウム137がβ線(電子線)を放射して放射線を出さないバリウム137に変わるという意味だった。
その時、約30年で半分になるのならまだマシだったと思った人もいたかもしれない。なにしろ原爆の材料になるプルトニウム239だと半減期が2万4000年にもなるという。それに比べれば、と考えてしまうからだ。
だが、原子単体で考えると、どっちがよかったかわからなくなる。プルトニウム原子は2万4000年の間にα線という放射線を出す確率が50%、つまり放射線を出すか出さないかが半々なのだと気づいてみると、こっちの方が放射線を浴びる確率は少ないと思うこともあるだろう。実際には微量のプルトニウムであっても原子の数は大量で、その中には2万年どころかすぐに放射線を出してしまうものも確率的に存在しえるし、放出されるのはα線といって、遮蔽は容易だが直接体内に入るとセシウムの出すβ線(電子線)より深刻な影響を発生させる放射線なので、プルトニウムは厳重に管理する必要がある。
この半減期の知識を踏まえて、悪趣味なのは覚悟のうえで人間の人生を考えてみる。
日本で65歳以上の高齢者の人口は、2019年9月15日現在で3588万人となり、高齢者人口が総人口に占める「高齢化率」は28.4%となった。もちろん日本史上最高である。石を投げれば高齢者に当たるというのは誇張でもなんでもなくなった。
これだけ高齢者が多ければ三途の川を渡って旅立たれる人も多くなる。東京都の死亡者数は60年代には5万人だったが今は11万人に達している。
しかし、その一方で自分の親や親戚など、身近な人が死んでゆく経験をする人はそう多くない。
なぜか。
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