メインメニューをとばして、このページの本文エリアへ

news letter
RSS

無料

火事場の9月入学論は危険だ/先進国で最も遅く義務教育を始める「コロナ入学世代」への懸念

コロナ危機の今、進めるのか? 1次効果も薄く2次被害の大きい政策オプション

末冨 芳 日本大学教授

2.政党も知事会も分裂

 9月入学を言い出した全国の知事さんたちの意見もかなり多様です。

 小池東京都知事、吉村大阪府知事はグローバル化、国際化への対応の文脈から声明を出されているようですが(日経新聞4月30日)、宮城県知事は公立学校の再開遅れへの懸念からの提言(NHKニュース4月29日)、京都府知事、岩手県知事、栃木県知事、富山県知事、奈良県知事、石川県知事、愛媛県知事らは今年度の9月入学には「拙速」「冷静な議論を」など慎重姿勢です(日経新聞4月29日、河北新報4月30日)。

 また鳥取県は5月7日からの県立学校再開を決めており、事実上9月入学は不要な状況になっているなど、47都道府県知事も分裂状況にあるといってもよいでしょう。

 政党の意見も多様です。自民党でも「少なくとも今年9月から始めるのは拙速だ」「現実味をもった対応」「地に足のついた議論が必要」などの慎重論が確認できます(産経新聞5月1日)。

 近畿大学理事長でもある世耕弘成自民党参議院幹事長は「国民が大変な中で大きな社会的な変革を行う余力があるのか」「社会的に耐えられるのか」など、かなりの慎重姿勢です(時事通信4月30日)。おそらく私と同様に、学校を越え、社会全体に相当に大きな影響があることを理解なさっていると拝察申し上げます。

 公明党も「ハードルも高い」と指摘なさっていますし(NHKニュース4月30日)、野党も国民民主党と日本維新の会のみが9月入学論を支持していますが、立憲民主党、共産党、れいわ新選組は9月入学の議論よりも新型コロナ対応に全力を尽くすべき、という姿勢と報道されています(産経新聞5月1日)。

 常日頃、チルドレン・ファーストを強調し、子ども・若者の貧困問題に熱心に取り組んでいただいている国民民主党の「『9月入学・9月新学期』案に関する提言」を私も拝読しました。ですが「学事歴の後ろ倒し」により公平な教育機会の保障ができる、という議論には首をひねらざるを得ません。

 後述しますが、安易な「学事歴の後ろ倒し」こそ、わが国の子ども・若者の学力保障だけでなく、一生消えない「コロナ入学世代」のダメージを負わせかねない危険な政策だからです。

 政党や知事会すらこのように意見がまとまらない政策イシューを、コロナ災害に国と地方の総力をあげて立ち向かわなくてはらない、いまこのときに議論するメリットは何なのでしょうか?

 突発的な9月入学論への対応に国や地方の公務員が時間を割くことになれば、本来であればいまこの瞬間にも推し進めなければならない子ども・若者への学びやケアの保障、学校現場の再開にむけて割かれるべき教育行政のリソースが奪われます。

 繰り返しますが、私自身は9月入学には特段、賛成でも反対でもありません。

 ただし、「火事場の9月入学論」はとても危険だ、という立場にたっています。

全ジャンルパックなら本の記事が読み放題。


筆者

末冨 芳

末冨 芳(すえとみ かおり) 日本大学教授

山口県出身、京都大学教育学部・同大学院教育学研究科修了。専門は教育行政学、教育財政学。子どもの貧困対策は「すべての子ども・若者のウェルビーイング(幸せ)」がゴール、という理論的立場のもと、2014年より内閣府・子どもの貧困対策に有識者として参画。教育費問題を研究。家計教育費負担に依存しつづけ成熟期を通り過ぎた日本の教育政策を、格差・貧困の改善という視点から分析し共に改善するというアクティビスト型の研究活動も展開。多様な教育機会や教育のイノベーション、学校内居場所カフェも研究対象とする。主著に『教育費の政治経済学』(勁草書房)、『子どもの貧困対策と教育支援』(明石書店,編著)など。

末冨 芳の記事

もっと見る