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コロナ自粛と「意識低い系」たちの反抗

不要不急は人それぞれ 小さな生活の自己決定権をめぐる争いの現場

清義明 ルポライター

 狭い空間に密集し、一心不乱にパチンコの盤面にむかっている人々の群れがいた。満員である。

 低い天井に据えつけられたエアコンの風がめいっぱい降りかかり、入り口付近には背の高い大きなイオン効果の空気清浄機が備えつけられ、そこからもこれでもかと風が吹きつける。出入口には消毒液のスプレーをもったスタッフがいて、入ってくる客たちの手にスプレーをかけている。客はそれぞれ消毒液を手のひらでこすりながら、狭い通路に並ぶ背中をすり抜け自分の台のイスに座り、それから退屈そうに盤面の煌びやかに輝く液晶画面に向き合い始める。

 盤面には「手洗い」と書かれたPOPが差し込まれていた。みな無言であるが、店内のBGMと盤面から出るけたたましい電子音で、たとえしゃべっていたとしても、耳を寄せなければ聞き取れないだろう。

パチンコ屋には「やることがないから来ただけ」

拡大神奈川県から休業指示を受けたパチンコ店。多くの客でにぎわっていた=2020年5月1日、横浜市

 神奈川県で唯一、いや現時点でおそらく首都圏で唯一営業しているパチンコ店に来ていた。

 横浜市の中心部から私鉄で10分程度の急行が止まる駅だが、お世辞にも大きな町とはいえない。唯一の商店街がひょろひょろと川のように続いていて、昔ながらの揚げ物屋や魚屋があり、その先のどん詰まりのあたりにそのパチンコ店はある。

 パチンコ店は「自粛」のターゲットである。緊急事態宣言が出て、新型コロナウイルスの予防に「三密」を避けるようにと、報道番組のキャスターあがり東京都知事がアピールしたあたりからパチンコ店は批判を浴びてきた。

 パチンコ店の関係者はこれに反論していた。曰く、昔ならともかく、今では肩と肩が触れ合うように台の配置はしていないし、客との間に仕切りがあるところまである。さらにパチンコ店は女性客や嫌煙の風潮を意識して、空気清浄に細心の注意を払っており、そのため空調設備は他の商業施設などに比べて数倍の換気能力がある。そして決定的なのはパチンコ店は会話がほとんどない遊戯施設である。それらを総合的に考えると集団感染のリスクはむしろ他の商業施設より少ないくらいだ、と。

 だが今回訪れた店は、基本的には昔ながらの町のパチンコ屋さんだった。ターミナル駅の繁華街やロードサイドにあるパチンコ店からすれば台数も少なく、そのような今時のパチンコ店に比べれば営業面積は数分の一であり、そこにギッシリと通路も狭く台が並べられていた。

 外に出ると、向かいの家の軒先にスタンド式の灰皿がある。そこに休憩に出た客がたまっている。この4月1日からパチンコ店は健康増進法の改正により全面禁煙になった。店内には小さな喫煙ボックスのようなところはあるが、そこは窮屈なのだろう。タバコを吸っている一人に話を聞いた。

 「やることがないから来ただけ」

 年齢は31歳で「職人」であるという。このパチンコ屋の存在は知っていたが初来店で、営業しているのをネットで知って来てみたとのことだ。パチンコ歴は10年以上。新型コロナウイルスは怖くなのかと聞くと、一言「騒ぎすぎですよ」と不機嫌そうだ。灰皿スタンドの足元にはツバが吐かれたあとが点々としている。

 駐車場も満車である。その駐車場の隅でタバコを吸っていた20代後半ぐらいの二人連れに聞いてみた。一人はつっかけサンダルにスウェットの上下、もう一人はジャージ姿である。

 「ふだんはココには来ないですね。国道沿いの他の店とかに行ってます」とのこと。原チャリで来たとのことだ。

 一応二人ともマスクはしているが、それはアゴにかけられていて口は覆われていない。「新型コロナウイルスは怖いかもしれないけれど、そんなに気になるほどではない」と笑顔で話してくれた。

 あなたが罹ってしまい他人にうつしてしまうのはどう思うかという質問には「それはあるかもしれないですけど・・・」と困った様子だ。隣で下を向いてタバコを吸っていたもう一人が助け舟を出す。「でも、それは運不運の問題だし、若ければ大したことにはならないんですよね?」

 パチンコに中毒性があるのは、自分自身の少ないパチンコ体験でも知っている。非日常感で幻惑させられる光と音に囲まれ、時間と金銭をかけたギャンブルの快感は高まる。ギャンブルの結果が自らの懐を温めようと冷たくしようと、そこには何か得体のしれない快感がある。裏返してみれば自己破滅のスリルでもある。

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筆者

清義明

清義明(せい・よしあき) ルポライター

1967年生まれ。株式会社オン・ザ・コーナー代表取締役CEO。著書『サッカーと愛国』(イースト・プレス)でミズノスポーツライター賞優秀賞、サッカー本大賞優秀作品受賞。

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