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続々と再開する各国スポーツは、トンネルの出口を照らすか

増島みどり スポーツライター

5月中旬に再開するドイツ1部リーグで首位を走るバイエルン・ミュンヘンのキミヒ(右)=ロイター

台湾プロ野球1000人規模の観客動員へ コロナ対策に続きスポーツでも世界の先端に

 5月11日、NPB(野球機構)、Jリーグ、コロナウイルス感染症拡大予防に関する専門家を交えた7回目の連絡会議が行われ、政府の緊急事態宣言発令中の開幕、再開の議論は難しい状況が3者で確認された。また、14日の政府の専門家会議の提言後、緊急事態宣言の全面的な解除、或いは段階的な緩和に伴い、プロ野球、Jリーグとも、専門家と、感染予防や移動などのリスクについて詳細な試合実施のためのガイダンス、選手についてどういった検査を行えるかなど、具体案を作っていく方針も固めた。

 日本スポーツ界がこうしたまだ準備段階での模索を続けるなか、新型コロナウイルス対策で世界の「優等生」と高い評価を集めた台湾はトップを切って動き出した。台湾プロ野球(CPBL)は5日、すでに4月12日から無観客でスタートしていた公式戦で、8日から1000人規模の動員を段階的に進めると発表。日本だけではなく、再開を模索する世界中のスポーツが、目指す方向に明かりを灯し始めた。

 1000人動員のための予防対策は徹底している。台湾野球連盟の発表では、観客は切符購入の際に、氏名だけではなく渡航歴など個人情報の提供、座席はあらかじめ大きく間隔を取られた場所が指定され、マスクの着用、入場の際の検温が義務付けられる。野球観戦の楽しみのひとつ、ファウルボールをキャッチするための移動も禁止される。

 「台湾のファンと社会、そしてスポーツを待ち望む世界中のファンに必ずこういう日が来ると伝えたい」(呉志揚コミッショナーのコメント)と厳格な対応にもファンは大歓迎しているという。

 やはりコロナへの予防対策で成果をあげた韓国では、5日にプロ野球(KBO)が開幕し、続けて8日にサッカーKリーグが始まる。タジキスタン、トルクメニスタンなどを除き、世界中でサッカーが長期休止に追い込まれ、フランスではリーグ打ち切りが決定される状況下で、Kリーグの開幕には世界中からかつてない注目が集まる。当初は予定になかったリアルタイムでのストリーミングサービスで全世界に配信することが急きょ決まった。世界中の関係者が試合だけではなく「サッカーと新型コロナウイルスの共存」といった、初めて目にするスポーツの在り方に高い関心を抱いている証だ。

 「世界のサッカーファンにKリーグ開幕を知らせ、新型コロナ克服の希望を伝えるための広報プロモーションだ」と、Kリーグは6日に発表。改訂版とした感染予防のマニュアルは、試合とウォームアップ以外はマスク着用、ベンチでの距離など詳細で、実際に各国のリーグからマニュアル共有の依頼が殺到しているという。

長引く活動休止で、選手のコンディションに深刻な不安も

 感染者数の地域ごとの違いも鮮明となり、Jリーグは今後、一斉スタートではなく56クラブの地域性を念頭に、試合方式の変更を検討する可能性を探るかもしれない。2月以来すでに3カ月になろうとする長い期間、トップ選手たちが活動を休止した状態は誰一人経験したことのない困難だ。

 J1通算最多となる185得点をあげ、今季東京ヴェルディに移籍した37歳のベテランストライカー・大久保嘉人は、取材に対して率直な言葉で思いをこう明かす。

 「1人でトレーニングを続けるのは正直、もう限界に来ていると思う。やはりキツイのはメンタル。プロとして妥協せず、自分を追い込んでみんな努力していると思う。再開したら90分走り切るためにと思っているが、休止がさらに長引いて、体のほうもどうなっていくのか分からない」

 MFなら1試合で約10㌔の距離を走り、体重も夏場は1試合で3㌔も減少する激しいコンタクトスポーツゆえに、誰もが、自分のコンディションを計れずにいる。若手とベテランでは、休止期間中の1日、1日の重みも異なる。

 浦和のGK西川周作(33)は、「ベテランにとっては、今後(遅れを取り戻すために)試合日程が詰まれば体力面で厳しくなるし、今季降格はないので、思い切って若手を起用しようという流れも生まれるかもしれない。再開が決まったら、先ずはその日を目指して調整するしかない」と、やはり日々苦しくなっていくコンディションの維持についてオンラインの会見で吐露した。

 村井満チェアマン(60)は今後、こうした未経験の苦境で踏ん張る選手たちのコンディション、メンタルケアにもさらなるサポートの拡充を行うとする。

 専門家会議のメンバーから、「スムーズな再開のためにも、選手が不安や疑問を直接質問できるホットラインを設置してはどうか」と提案されたという。すでに設置済みの「メンタルヘルスケア」の相談窓口も活用し、各クラブ全選手に対して細かいアンケートを実施したうえで、窓口別に話が聞けるような方法で選手への対応を検討する。

 「休止期間がこれだけ長引けば、調整はプロとして当然、と、するような選手頼みではいけないと思う。漠然と、このままサッカーが続けられるのかといった不安や、ウイルス対策や、クラブ経営への心配もある。今後再開への道筋には、選手のサポートが重要になる」

 チェアマンはそう話す。

スポーツとコロナ、各国とも新たな共存の形を探り、続々と再開へ

 欧州サッカーの5大リーグ(イングランド、ドイツ、イタリア、スペイン、フランス)では、ドイツがトップを切って16日に再開すると発表された。同国のPCR検査は徹底しており、4月30日から、1、2部全クラブを対象に1724人もの検査が行われ、うち10人の陽性が判明。反対の声はあるが、メルケル首相は感染予防の厳格なルール作り、無観客を前提に再開を認めた。

 反対にフランスは死者が2万5000人を超え、5大リーグでは最初に10試合を残して今季の打ち切りを決定。スペインは6月の再開を目指すが、ロックダウンはもっとも厳格だったため、2日に50日ぶりに自宅から1㌔以内の散歩、ジョギングが認められたばかりだ。香川真司(サラゴサ)が、「7週間ぶりに外出し最高」と公式ツイッターにあげたほど、試合再開とはまだかけ離れた状況のようだ。イタリアも5日からようやくトレーニングが開始される。

 イングランドでは、コロナ関連で死者が100人を切っていた、英連邦のオーストラリアでの分散開催といった大胆なアイデアも出ていると伝えられた。各国、莫大なテレビ放映権をシーズン終了時までに何とか手にしようと、旧システムを死守する苦肉の策でもある。一方、今シーズンが終われば、もう、2度とかつての風景には戻れないのかもしれない。ウイルスに勝つより、ウイルスとスポーツの新しい共存の形が、トンネルの出口を照らすだろうか。