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9月入学論争 最大のリスクは「社会の分断」だ

コロナ禍の今から目指すべきは、それぞれのニーズに応じた学習の個別化である

米澤彰純 東北大学教授

世代間ギャップに基づく誤解

 まず、認識の世代間ギャップから考えてみよう。

 1965年生まれの私が学生当時の1980年代後半の日本は、円高と好景気を背景に留学熱が高く、私自身も何度か留学に向けて具体的に準備したことがある。しかし、単位互換などの大学としての組織的な留学支援はまだ未整備であったし、企業内教育をそつなくこなせることを証明する大学入試さえクリアすれば、あとはできるだけ早くよい就職機会を狙っていくという当時の風潮の中で、よい仕事、大学院進学とのバーターで見送ったという経験がある。

 ただし、この自分自身の経験を、現在の高校生や大学生にそのまま当てはめることは、明らかに間違っている。

 日本学生支援機構によれば2018年、日本の大学らの日本人学生の海外派遣は11万5千人と順調に増え続けている。また、2019年の外国人留学生受入れ数も31万2千人となっている。いずれも、相手大学に正規学生として在籍し単位を取得する数は圧倒的に少なく、派遣は短期、受入れは日本語学校という語学留学が主体であり、より本格的な留学のためには学期がそろっていたほうがよいというのは確かにあるかもしれない。

 しかし、海外派遣への大学や社会の情報・学習支援も年々手厚くなっている中で、留学をためらう理由として今彼らが悩んでいるのは、アカデミックカレンダーなどの制度ではない。東北大学の例を挙げれば、2017年の調査で、経済負担の大きさと外国語能力の不足の2つのみが、半数を超える者があげる留学をためらう理由である。

 さて、我々が、バブル当時、少しでも早い大学進学を目指していたかというと、そうではない。私は、高校卒業後1年予備校生活を送り、浪人後、二度目の大学入試で進学を決めた。端的には、1年浪人してでも、威信の高い大学に入学した方が自分の将来に有利だと思ったからである。

 当時の共通一次試験や二次試験は、今日流に言えば格差を生み出しにくいマークシートやペーパーテスト主体であったわけだが、浪人できるかは家計の豊かさによるわけだから、平等な勝負ではなかった。学校基本調査によれば、平成元(1989)年の大学・短期大学入学者の浪人比率は27.0%。令和元(2019)年は13.8%と、30年でほぼ半減している。大学進学の需給状況が全く異なるとは言え、現在の学生の方が、進学が遅れることの経済的コストには、ずっと敏感であると考えられる。

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筆者

米澤彰純

米澤彰純(よねざわ・あきよし) 東北大学教授

東京大学大学院教育学研究科博士課程中退、2009年東北大学より博士(教育学)。東京大学助手、経済協力開発機構コンサルタント、広島大学、大学評価・学位授与機構、名古屋大学准教授を経て現職。専門は 教育社会学・高等教育。高等教育政策・質保証などのマクロな国際比較を得意とし、現在は、途上国までを含めた大学の国際的な役割について研究。東北大学では、国際戦略形成のための調査や立案に従事。主著にJapanese Education in a Global Age、Emerging International Dimensions in East Asian Higher Education (いずれもSpringer 編著)、編書『大学のマネジメント』(玉川大学出版部)、訳書『新興国家の世界水準大学戦略』(東信堂)など。