市長が「専決」で制定。コロナ緊急事態での地方自治の在り方とは
2020年05月21日
私が市議会議員を務める神奈川県大和市では4月16日、大木哲市長の発案から、「おもいやりマスク着用条例」が公布、施行された。
議会に諮らない専決処分だった。
大木市長は「全国初」事業へのこだわりが人一倍強く、コロナ問題では、消毒用の次亜塩素酸水の配布、歯科医師が参加するPCR検査といった独自の対策を、他自治体に先駆けて打ち出している。スピーディーな取り組みは市長の評価を高める一方、「非常時とはいえ、首長が理念条例を専決処分してよいのか」といった、地方自治上の問題点も浮き彫りにしている。
カーン、カーン、カーン、カーン…。
大和市では週末の午後7時、市内90カ所の防災行政無線のスピーカーから、鐘の音が鳴り響く。新型コロナウイルスの治療にあたる医療従事者に感謝の意を伝えるための取り組みで、東京・銀座の和光の時計塔が実施する「命の鐘アクション」に賛同したものだという。プロレスラーの引退や追悼時に行われるテンカウントゴングのような重苦しい響きは、今の日本が「準戦時体制」にあることも連想させる。
大和市は、神奈川県のほぼ中央に位置している。小田急江ノ島線、東急田園都市線、相鉄線の私鉄3線が乗り入れ、都心の渋谷や横浜まで約30分。人口23万人のベッドタウンだ。海上自衛隊と在日米海軍が共同利用する厚木基地を抱え、渋滞の名所として知られる東名高速・大和トンネルがある。
サッカーの女子ワールドカップ日本代表選手を数多く輩出したことで名高く、市は「女子サッカーのまち」を売りにする。
2016年11月には図書館や市民ホール、生涯学習センターなどが同居する文化複合施設「シリウス」がオープン。市外からも多くが訪れるランドマークとなっている。市は「図書館城下町」を標榜するが、この施設も現在、コロナ禍への対策で休館となっている。
地域の様子は一変した。外出自粛要請に伴い、時間短縮や休業を迫られる飲食店が増え、「無期限で臨時休業します」との張り出しも目に付くようになった。大手ショッピングモールは、スーパー以外の専門店の多くが休業中だ。
鉄道各駅の利用客も減少傾向にあるようだ。詳細なデータは把握できないが、東急電鉄によると、全線の乗降客数は大型連休機関中の5月2~6日は、対前年比で7、8割も減少したという。
だが、覆いが被さったままの店舗は、コロナ禍のシンボルのように見えてならない。
条例は前文で、「思いやりの心をもってマスクを着用することが、感染症等の予防及び拡大防止を図り、思いやりあふれる社会の実現に資する」と明示する。その内容は極めてシンプルで、「市民はマスクの着用を心がけるよう努める」「市は意識の啓発等必要な施策を推進する」の2点のみである。罰則規定はなく、「理念条例」として位置づけられる。
市民の反応は賛否両論だ。「入店者にはマスクをしないで咳をする人もいる。マスク着用への理解が高まることは有難い」と評価がある一方、「入手しづらいのだから、マスクを配布することが先決だ」との批判も聞かれる。市は、マスクの作り方をホームページに掲載。5月になって、寄贈を受けたマスクを、高齢者らに配り始めた。
マスク着用の啓発を推進すること自体に、私も異存はない。だが、この条例は、重要な問題を抱えていると考える。
それは、①理念条例と呼ばれる市独自の政策条例を「首長の専決処分」で行ってよいのか②「マスクの感染防止効果を過大視」していないか③エチケットやマナーに属する事柄が「地方の法律」と言える条例になじむのか――の3点だ
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