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対馬のカワウソ再発見は、広い意味での「ニホンカワウソの復活」だ

「世界カワウソの日」に考える野生動物保護と自然環境の未来

熊谷さとし カワウソ研究会共同代表

 今年の5月27日(5月の最終水曜日)はイギリスのInternational Otter Survival Fund(国際カワウソ保護基金)がカワウソの保全を啓発するために定めた「世界カワウソの日」だ。

 私はカワウソを調査・研究・観察して30年――韓国・カナダ・サハリンといった外国でしか観察できなくなっていた――もともと日本に生息して民話や妖怪になって、日本文化に溶け込んでいたカワウソは、わざわざ外国まで行かないと見られなくなってしまった。2012年、環境省はニホンカワウソの絶滅宣言をする。

 2017年3月、東京動物園協会と共催で、友人の韓国の研究者たちを招聘して「~韓国と日本~ カワウソのたどってきた道」というシンポジウムを開催した。これは私の、けじめ、思い切りであり、絶滅させてしまったニホンカワウソへの謝罪の思いがあったからだ。

 たまに国内での目撃情報があっても、ヌートリアだったり、ハクビシンであったり・・・そんな時、2017年8月! とんでもない情報が飛び込んできた! 謝罪した途端に、対馬でカワウソが再発見されたのだ!

対馬で撮影されたカワウソの動画画面=2017年2月6日、長崎県対馬市(写真提供:琉球大学動物生態学研究室提供)

そもそも日本はカワウソ天国だった

 そもそも昔、日本はカワウソ天国であった。

 北海道にはエゾカワウソ(Lutra lutra whiteleyi 宗谷海峡を越えてサハリンから入り込んできたと考えられる)、本州・四国・九州にニホンカワウソ(Lutra lutra nippon 大陸と日本列島が繋がっていた120万年前に大陸からやってきて、日本列島に閉じ込められてしまった)が生息していた。そして、今回見つかったのが大陸から韓国経由で流れてきた「ツシマカワウソ」(Lutra lutra)だ。

 宗谷海峡は幅が30キロ程度しかなく、海流の流れも緩やかなため、サハリンから北海道まで泳いでくることは可能だ。あまり知られていないが、北海道でのカワウソの目撃談は結構多い。ほとんどがミンクの見間違いが多いけれど、信憑性がある報告例もある。

 1974年3月 旭川郊外釧路管内で目撃
 1978年7月 深川市内にで2頭保護され、すぐに放獣
 1989年6月 旭川市神居町 石狩川の神納橋付近でロードキル(交通事故)死体が発見される

 1989年の例は解剖の結果、ユーラシアカワウソ(Lutra lutra)の飼育個体だと結論づけられたが、飼育までの過程が謎だ。密売人のペット業者から手に入れたのか? はたまた野生を捕まえて飼っていたのかがわからないのだ。

 東南アジア産のコツメカワウソは、ネットを使えば一般人がペットとして入手できるが、ユーラシアカワウソとなると困難だ。そうなると、地元の誰かが密かに捕獲したものを飼育していた可能性もある。

目撃された最後の個体となったニホンカワウソ=高知県須崎市で1979年5月、高橋誠一さん撮影
 ニホンカワウソは、乱獲と高度経済成長による生息地の攪乱と開発、農薬のせいで絶滅寸前となった。今もまだ、高知県と愛媛県の境周辺での目撃情報はあるものの、
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