赤木智弘(あかぎ・ともひろ) フリーライター
1975年生まれ。著書に『若者を見殺しにする国』『「当たり前」をひっぱたく 過ちを見過ごさないために』、共著書に『下流中年』など。
※プロフィールは原則として、論座に最後に執筆した当時のものです
ネットに渦巻く「政府の恩寵をありがたく受け取らない連中はいくら叩いてもいい」の声
さて、なかなか届かなかったアベノマスク。
私のところには4月27日に届いたが、これは相当早いほうで、近所同じ丁の人でも最近になって、ようやく届いたというような人もいた。全国的にもそろそろ届いているのではないだろうか。
そんなアベノマスクで、ちょっとした騒動があった。
埼玉県のある中学校で、生徒に配布されたプリントがTwitterにアップされた。これに5月27日の予定として「アベノマスク着用(別のマスク着用生徒については携帯しているか)の確認」と言う項目があったのである。また個別指導の項目には「アベノマスクを忘れた人は少人数教室に残る」と書いてあり「これはアベノマスクを強要しようとしているのではないか」と騒がれたのである。
市教育委員会はこれを「誤解」であると否定。あくまでも「有効活用しよう」という考えであったとして、個別指導も罰則ではなく「忘れた生徒には市教職委員会から支給する不織布マスクを配る」ということだったと釈明した(livedoorNEWS 5月25日付)。
僕にはこれは誤解であるとは思えない。
少なくとも「マスクをしてこない生徒に対して、マスクを着用させるとか配る」という話であるなら、分からなくはない。しかしアベノマスクをことさらに特別視し、「別のマスクをしていてもアベノマスクを持ってこなければならない」などというのは道理が通らない。
これがなんらかの誤解であると言えるのなら、この中学校には国語教師がいなかったとしか考えようがないのだ。
さて、ようやく全国的に配布がされつつあるアベノマスクだが、5月上旬頃には、少しずつ店舗でも不織布マスクを見かけるようになっていた。
安倍総理大臣は5月6日のニコニコ生放送に出演し、マスクの価格が下がってきていることを「アベノマスクの成果」と主張したが、その時点ではほとんどの世帯に届いてもいなかった、1世帯に2枚ばかりのマスクが市場を変えるはずもない。
実際にはこの頃、中国での新型コロナの感染が一段落ついてきており、マスクを中国から輸入しやすくなったらしい。なので、中国とつながりの強い取引先を持つ、中華料理店などの普段はマスクを取り扱わない店舗が、マスクを扱い始めたというのが実際のようだ。
また、アイリスオーヤマやシャープなどの企業がマスク生産に乗り出したことも、マスクの値下がりに大きく影響しているとみられている。5月も下旬になると価格も大きく下がり、現在では新型コロナ発生以前ほどはないが、かなり手頃になった。
そんな頃にひょっこりやってくるアベノマスク。
布マスクだから洗って何度も使えるという利点も、潤沢に不織布マスクが売られている現状では、洗浄不十分による雑菌繁殖のリスクを負うだけだ。もはや学校で強制でもしない限り、使う必然性はないと言えるのである。