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G・フロイド氏の死は、アメリカをどう変えるのか――NY現地報告

田村明子 ノンフィクションライター、翻訳家

Black Lives Matterに込められた気持ち

 集まった人々の間に、「Black Lives Matter」と書かれたプラカードなどが、たくさん見える。余談だが、この英文は一般的に「黒人の命も大事」と訳されているが、このスローガンのニュアンスを少し説明したい。

 YES Market Media/Shutterstock.com拡大「Black Lives Matter(黒人の命も大事)」は抗議デモのスローガンになった=フロリダ州コーラルスプリングス YES Market Media/Shutterstock.com

 今回のアメリカから全世界に広がっている抗議デモは、5月25日にミネソタ州ミネアポリスで警官に窒息死させられたジョージ・フロイド氏の死亡事件が発端だ。

 Matterというのは、気に掛けるべき重要なこと、という意味である。

 「Doesn't matter.(どうでも良い)」という表現は、英語社会で日常的によく使われる。奴隷制度があった時代には何人の黒人が殺されようとも白人のオーナーは罪に問われることはなく、彼らの命はまさに「Doesn't matter」の扱いを受けてきた。

 後ろ手に手錠をかけられ、身動きできない状態で首を膝で圧迫され続けたフロイド氏は、「息ができない」「おかあさん」と悲痛な声をあげながらも、顧みられなかった。加害者のデレク・シュービン警察官はもちろん、見ていた3人の警察官たちの心の中に、「黒人一人死んでも、大したことにはならない」という気持ちがあったのではないか。

 残された酸鼻極まる映像を見ると、彼らにとって、黒人の命はやはりDoesn't matterだったとしか考えられない。

3日、ホワイトハウス周辺を警備する警察官たち=ワシントン、ランハム裕子撮影 
拡大カリフォルニア州サンノゼで=hkalkan/Shutterstock.com

 アブラハム・リンカーン大統領が奴隷解放宣言を行ってから160年近くがたった現在でも、人種差別は依然として存在する。特に警官による黒人への理不尽な暴行、誤認逮捕、殺害はこれまで数えきれないほど、繰り返されてきた。

 この「Black Lives Matter」のスローガンは、これまで何度も虫けらのように踏みにじられてきた黒人の命は「どうでも良いことではない」と訴える悲痛な声なのだ。日本語訳を見て、命が大事なのは黒人だけじゃないだろう、と違和感をもった人はこういう本来のニュアンスを改めて知って欲しい。

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筆者

田村明子

田村明子(たむら・あきこ) ノンフィクションライター、翻訳家

盛岡市生まれ。中学卒業後、単身でアメリカ留学。ニューヨークの美大を卒業後、出版社勤務などを経て、ニューヨークを拠点に執筆活動を始める。1993年からフィギュアスケートを取材し、98年の長野冬季五輪では運営委員を務める。著書『挑戦者たち――男子フィギュアスケート平昌五輪を超えて』(新潮社)で、2018年度ミズノスポーツライター賞優秀賞を受賞。ほかに『パーフェクトプログラム――日本フィギュアスケート史上最大の挑戦』、『銀盤の軌跡――フィギュアスケート日本 ソチ五輪への道』(ともに新潮社)などスケート関係のほか、『聞き上手の英会話――英語がニガテでもうまくいく!』(KADOKAWA)、『ニューヨーカーに学ぶ軽く見られない英語』(朝日新書)など英会話の著書、訳書多数。

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