このような事件だからこそ、法の運用は公平かつ厳格でなければならない
2020年06月11日
京都アニメーション放火殺人事件の青葉真司容疑者が、長い入院生活の後に、逮捕・勾留され、現在、捜査機関に身柄を拘束されている。
「死者36名、負傷者33名という未曾有の事件を引き起こしたのだ。逮捕・勾留は当然だ。しっかりと取り調べ、1日も早く真相を究明してほしい」と、多くの人が思ったのではないだろうか。青葉容疑者が勾留されることに、特に疑問を抱かなかった人も多いかもしれない。
しかし、今回の勾留は、法曹関係者の間では疑問の声が大きい。それはなぜか。
そもそも勾留とはどういう制度なのか。まずは、刑事事件の一般的な流れを整理してみよう。
犯罪が起きると、警察が容疑者を「逮捕」し、48時間以内に身柄を検察官に送致する(刑事訴訟法203条1項)。俗にいう「送検(ソウケン)」だ。
どうして警察は送検するのかというと、警察は自分たちでは起訴・不起訴の判断ができないからだ。我が国では、起訴は検察官だけができるとされている(刑事訴訟法247条)。そのため、起訴するかしないかを検察官に決めてもらうために送検するわけだ。
さて、警察から容疑者を送致された検察は、容疑者をさらに身柄拘束する必要があると考えた場合には、24時間以内に、裁判所に「勾留請求」をすることになる(刑事訴訟法205条1項)。
勾留請求を受けた裁判所は、勾留の要件を満たしていると判断する場合には、勾留状を出し、容疑者は勾留される。勾留場所は、通常は警察署内にある留置施設だ。
勾留期間は10日間以内だ。ただし、その間に検察官が容疑者を起訴するか否かを決められない場合には、さらに最大10日間延長できる(刑事訴訟法208条)。つまり勾留期間は最大で20日間だ。
検察官は、この勾留期間が終わるまでに、容疑者を取り調べたり、証拠を集めたりして、最終的に容疑者を起訴するか、それとも不起訴にするかを判断する。勾留期間は絶対に守らなければならない。「捜査が間に合わなかったので、もう少し勾留させてください」という言い分は通らない。
なぜ、そういった言い分が通らないのか。なぜ、法律は、ここまで厳しく身柄拘束の期間を制限しているのか。
それは、逮捕や勾留といった身柄拘束は、対象者の人権を著しく制限するからだ。だから、身柄拘束というのは、無制限に認めてはいけないし、それが認められる要件は法律できちんと定められている。
では、勾留が認められるための要件とは何か。
勾留要件は、刑事訴訟法207条1項が準用する60条1項に定められている。
【刑事訴訟法60条1項】
裁判所は、被告人が罪を犯したことを疑うに足りる相当な理由がある場合で、左の各号の一にあたるときは、これを勾留することができる。
① 被告人が定まった住居を有しないとき。
② 被告人が罪証を隠滅すると疑うに足りる相当な理由があるとき。
③ 被告人が逃亡し又は逃亡すると疑うに足りる相当な理由があるとき。
要するに、
①住所不定
②罪証隠滅のおそれがある
③逃亡のおそれがある
この3つの要件のうち、どれか1つに該当すれば
有料会員の方はログインページに進み、朝日新聞デジタルのIDとパスワードでログインしてください
一部の記事は有料会員以外の方もログインせずに全文を閲覧できます。
ご利用方法はアーカイブトップでご確認ください
朝日新聞デジタルの言論サイトRe:Ron(リロン)もご覧ください