コロナ緊急事態が解かれ、小中高校の授業が再開する中で
2020年06月14日
「大学生は人生の夏休み」と、しばしば喧伝されることがある。たしかに、毎日決まった時間に職場に行き、決められた仕事をこなさなければならない立場からみたら、学生という「身分」はめぐまれているようにみえる、かもしれない。
しかし、それは言ってしまえば「過去の物語」にすぎない。今の時代は、就職活動が早期化しており、いまや9割を超える学生が「インターンシップ」に参加するというデータもある。また学費が値上がりし続けており、困窮する学生が多いことは、コロナ禍でより顕在化した。そのうえ「オンライン授業」への移行により、さらなる負担が増えているという。
「緊急事態宣言」が解除され、多くの小中高校では授業が再開された一方、大学では6割で「オンライン授業」のみの実施が続く(注)。「小中高校とは違い、大学はオンラインで代替しうる」と考えられているのだろうか。果たして「オンライン」で大学の授業は代替できるのか。改めて検証していきたい。
「一日、7~8時間はパソコンに向き合わなければなりません。正直、うつになりそうです」。今年の春から慶應義塾大学法学部に通う女性の悲痛な叫びである。「通う」といっても、入試以来、一度もキャンパスに足を踏み入れることが叶っていない、のであるが。
彼女は、年間52単位分の授業を履修している。だいたい毎日平均すると、1日当たり4コマほどの授業を受講していることになるという。しかも、土曜日に開講されている授業も履修しており、週6日そのような状況が続いている。
彼女が履修している授業の多くは、オンデマンド式、すなわち録画された動画を視聴する形態で行われている。動画視聴後、1コマあたり400~800字程度のレポートが課されることも多い。そうすると、月~土曜日は、授業の視聴に90分×4=6時間、さらに課題準備で3~4時間を要し、日曜日も課題準備に追われているという。このケースは法学部の場合であるが、レポートの分量がさらに多く課せられている学部もあるようだ。
しかも、オンデマンド式の授業形式の場合、授業の内容をもとに友人と議論をしたり、教員に質問したりするハードルが高くなる。「学びを誰とも共有できないこともなかなか辛いことの一つ」だという。
彼女が懸念しているのは、アルバイトとの両立である。彼女は、都内の公立高校出身であり、必ずしも裕福な家庭で育ってきたわけではない。「来月から学習塾のアルバイトをしようとしていました。でも、この状況が変わらないと厳しいです」
学習時間が平時より増えることは、必ずしも否定すべきことではないだろう。しかし、コロナ禍により経済的格差が増大している現状に鑑みると、「レポート作成に、どれだけの時間をかけられるのか」「限られた予算のなかで、どのような文献を購入できるのか」は、経済状況によって規定されているといってよい。このままでは「経済格差」がそのまま「学習格差」になる状況が、より深刻になってしまう。
音大生も憤慨している。そもそも通常のレッスンを「オンライン授業」で代替するというのは、きわめて非現実的だからである。
東京芸大に通う男性は、「生で聴くことと、電子機器を通して聴くのとでは、
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