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黒川検事長と賭け麻雀をした記者は今からでも記事を書け

ジャーナリズムは「権力監視」のため 記者は結果で示すしかない

高田昌幸 東京都市大学メディア情報学部教授、ジャーナリスト

池上コラムへの違和感

 朝日新聞朝刊の人気コラム「池上彰の新聞ななめ読み」は5月29日、「黒川氏との賭けマージャン 密着と癒着の線引きは」と題する記事を載せた。

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 コラムは「この原稿を書くのは、なんとも気の重いことです」で始まる。全文1500字余り。池上氏ならでは、の軽妙なタッチであっという間に読み進んだ読者も多かっただろう。

 同時に、どこかもやもやした、隔靴掻痒の感を抱いた読者もいたのではないか。私自身はかなりの違和感を覚えた。

黒川検事長という時の人に、ここまで食い込んでいる記者がいることには感服してしまう。自分が現役の記者時代、とてもこんな取材はできなかったなあ。
朝日の社員は、検察庁の担当を外れても、当時の取材相手と友人関係を保てているということだろう。記者はこうありたいものだ。

 こう記した後、賭けマージャンそのものを「さすがにまずい」と批判し、池上氏の体験が綴られる。氏はNHKの記者として警視庁を担当していた2年間、「たいした特ダネ」も書けないまま担当を外れ、忸怩(じくじ)たる思いを抱いたのだという。

 池上氏は書いている。

上司から言われたことは忘れられません。記者の心得として、「密着すれど癒着せず」という言葉でした。
取材相手に密着しなければ、情報は得られない。でも、記者として癒着はいけない。

 池上氏はさらに、読売新聞の大阪社会部で事件記者として鳴らした大谷昭宏氏のコメントも引用している。それは「記者は取材相手に食い込むために、お酒を飲んだり、マージャンやゴルフをしたりすることもある」「(権力を持つ側が)発表した文書を通り一遍に伝えるだけでは記者の仕事は成り立たず、読者にディープな情報を届けられなくなってしまう。新聞には公器としての役割がある」という内容だ。もちろん、賛同しての引用である。

 一般読者なら賭けマージャンに強い疑問や嫌悪感を抱き、このコラムを読んだ後に「ごちゃごちゃ言う前に賭けマージャンの実態を書けよ」と思う人も少なくないのではないか。確かに、常習賭博は違法である。

 ただ、私の「違和感」は別のところにある。それは、池上氏のコラムには肝心なことが書かれていない点にある。

 池上氏が言う「ここまで食い込んでいる記者がいることには感服してしまう……記者はこうありたい」にしても、「取材相手に密着しなければ、情報は得られない」にしても、それが何のためであるかは明示されていない。大谷氏のコメントを引用しながら「ディープな情報」を得るために密着は必要と言っているに過ぎず、得た情報をどうすべきかの方向性をあいまいにしたままペンを置いている。

 いわば、食材を調理する方法のみをまな板に上げ、誰のためにどんな料理を出そうとしているのかについては問うていないのである。「取材は権力監視のためにある」というジャーナリズムのイロハのイが抜け落ちている。

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筆者

高田昌幸

高田昌幸(たかだ・まさゆき) 東京都市大学メディア情報学部教授、ジャーナリスト

1960年生まれ。ジャーナリスト。東京都市大学メディア情報学部教授(ジャーナリズム論/調査報道論)。北海道新聞記者時代の2004年、北海道警察裏金問題の取材班代表として新聞協会賞、菊池寛賞、日本ジャーナリスト会議大賞を受賞。著書・編著に『真実 新聞が警察に跪いた日』『権力VS調査報道』『権力に迫る調査報道』『メディアの罠 権力に加担する新聞・テレビの深層』など。2019年4月より報道倫理・番組向上機構(BPO)放送倫理検証委員会の委員を務める。

※プロフィールは原則として、論座に最後に執筆した当時のものです

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