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「リーク」とは何か~当局はジャーナリズムを使って情報操作する

黒川検事長と記者の賭け麻雀問題から「権力と報道の関係」を考える

高田昌幸 東京都市大学メディア情報学部教授、ジャーナリスト

「当局のリークは怖い」

 「リーク」という言葉自体は、すっかり社会に浸透している。各国の機密文書などを暴露するインターネットサイト「ウィキリークス」も有名だし、賭けマージャン問題をめぐっても誰が『週刊文春』にネタをリークしたのかが取りざたされた。

 三省堂のスーパー大辞林には「水が漏れること」という語義に続いて、2項目にはこう記されている。

秘密や情報を意図的に漏らすこと。「――して反応をみる」

 さすが、辞書である。要諦をきっちり押さえている。

拡大Andrey_Popov/Shutterstock.com

 「リークして反応をみる」とは、政権の要人や外交当局などが意図的に何かの情報を記者に伝え、メディアに報道させ、国民や国際社会の反応をうかがうことだ。権力と記者の間では、これは日常的に存在する。

 朝日新聞の記者だった山本博氏(故人)は、調査報道の旗手として知られた。税金も原資とする公金の組織的流用を暴いた「公費天国キャンペーン」、有名百貨店の裏側に迫る「三越ニセ秘宝事件」、自民党とカネの暗部を明らかにした「平和相互銀行事件」などの取材で知られる。今でこそ談合は珍しくないが、ゼネコンの談合を取材で徹底的に明るみ出したのは、山本氏らの「談合キャンペーン」が最初だと思う。いずれの仕事も1970年代後半から80年代にかけての、見事な成果だった。

 その山本氏は生前、筆者に何度か「当局のリークは怖い」と語ったことがある。その一部は拙著「権力vs調査報道」に記しているが、大意、以下のような内容だ。

 当局のリークネタは怖いです。梶山静六氏という自民党の大ボスがいましたが、「梶山氏が三井建設(現在の三井住友建設)から1千万円もらっていた」という記事を、朝日新聞が1面トップに書いたことがある。あの記事は、検事が記者にリークしたものでした。なぜかというと、時効になっていて立件ができないからです。だから、社会的制裁だけ与えようとしてリークしたわけです。ところが、実際は、三井建設の内部で梶山氏の名前を使って裏金を作り、自分たちで使っていたということが後で分かりました。

 この記事は訴訟になった。リークネタが怖いのは、記者による反証や第三者による検証ができないからだ。山本氏はこうも言っている。

 リークネタで記事を書いて、それが訴訟になっても、法廷で記者は「真実と信じる相当の理由があって書きました」と言うしかありません。真実相当性の理由のほかは何も言えない。「夜回り取材で●●検事が教えてくれました」とは言えないでしょう? リークネタは非常に怖いです。当局は、ジャーナリズムを使って情報を操作します。

 権力や当局者は常に、自らに都合のよい情報を、自らに都合のよいタイミングで、自らに都合のよい方法を使ってメディアに伝えようとする。逆に、自らに都合の悪い情報は徹底的に管理し、外に漏れないようにする。古今東西、程度の大小はあれ、多くの権力はそうだった。

 山本氏自身も当局に都合よく使われた経験がある。国鉄分割民営化の少し前、国鉄の経営が政府のお荷物になっていた1970年代末ごろの話だ。

 運輸省(現国土交通省)の担当記者時代のことです。運輸省は、国鉄を分割民営したくてたまらなかった。一方の国鉄側は当時、まだ労使一体となって断固抵抗していました。政治家も真っ二つ。運輸省派の分割民営賛成派と、「今までどおりの国鉄でいいんだ」という反対派。大激論や水面下の綱引きが本当に激しかった。そのころ、運輸省の国鉄担当の課長が「君は熱心に取材しているから、君だけに教える。君だけだよ」と言って、国鉄が資金ショートしたことを教えてくれた。

 山本氏は「よし、特ダネだ」と思って大きな記事を書いた。記者として脂の乗り切った、30代のことである。

 本当は、あの課長は記者全員に教えていました。個々の記者を1人ずつ呼んで「君だけだよ」と、資金ショートしたことをリークしました。それで、各社みんな1面トップで「国鉄、事実上倒産」と書きました。翌日、その課長は、自転車に乗って一番近いキヨスクに行って、全紙を買って大喜びしたそうです。「やった、やった」と。

 そうした報道の結果、真っ二つの片側だった「分割民営の賛成派」は世論を味方に付け、勢力を拡大していく。このリークの態様自体は、今を基準に考えれば、どこか牧歌的ではある。しかし、権力の基本姿勢はいつの時代も変わらないだろう。

 ICレコーダーの音源には山本氏のこんな言葉も残っている。

 権力は情報を都合よく使おうとするし、そういうことをやるからリークは非常に怖い。いつの時代も、です。記者もばかではないから、簡単には騙されない。しかし、当局のリークは、断片的であっても情報自体にうそはないんです。当局者もうそをついているわけではありません。全部本当だけれども、出し方によって記者は操作されています。そして、決してリークされない情報がごまんとあるわけです。

拡大hamofking/Shutterstock.com

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筆者

高田昌幸

高田昌幸(たかだ・まさゆき) 東京都市大学メディア情報学部教授、ジャーナリスト

1960年生まれ。ジャーナリスト。東京都市大学メディア情報学部教授(ジャーナリズム論/調査報道論)。北海道新聞記者時代の2004年、北海道警察裏金問題の取材班代表として新聞協会賞、菊池寛賞、日本ジャーナリスト会議大賞を受賞。著書・編著に『真実 新聞が警察に跪いた日』『権力VS調査報道』『権力に迫る調査報道』『メディアの罠 権力に加担する新聞・テレビの深層』など。2019年4月より報道倫理・番組向上機構(BPO)放送倫理検証委員会の委員を務める。

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