人が直接曝露しても毒性がなく、空間除菌ができるという根拠のある消毒剤はない
2020年06月16日
消毒液を空間に噴霧して、空間除菌を図る動きが自治体や企業で続出した。そのとき使われた消毒液が次亜塩素酸水だ。
厚生労働省は「どんな種類の消毒液でも空間除染には不十分だから推薦しない」とした。この国の見解を受けて次亜塩素酸水の空間噴霧を取り止める動きも出た。文部科学省も「子どもがいる空間で次亜塩素酸水を噴霧しないように」という通知を出した。
対して、「次亜塩素酸水は安全・無害で消毒効果が高い」という意見も多く見られる。
私は、かつて検定高校化学教科書の著者の一人として、「無機化合物」の章で、塩素や次亜塩素酸ナトリウム、次亜塩素酸について執筆していたことがある。そのような理科教育者としての立場から、次亜塩素酸水についての化学、その消毒効果、そして空間除菌(空間に漂う細菌。ウイルスなどの病原体を除くこと)について解説を試みたい。
コロナ禍のなかで、新型コロナウイルスの感染予防にもっとも手近で確実な方法は消毒である。病院はもちろんのこと、一般家庭でも、消毒は簡単に実行できる重要な感染予防法だ。
新型コロナウイルスで、手指の消毒には、アルコール(消毒用エタノール)あるいは石けんなどの界面活性剤での手洗い、物品の表面の消毒には塩素系漂白剤(成分:次亜塩素酸ナトリウム)を薄めた液で拭き取ることが薦められている。それぞれウイルスの失活効果についての根拠もしっかりしている。
だから厚生労働省や経済産業省は、エタノール、次亜塩素酸ナトリウム、界面活性剤に新型コロナウイルスの失活効果があると認めている。
独立行政法人製品評価技術基盤機構(NITE)は5月、界面活性剤7種に、テーブルやドアノブなど物品の表面を消毒することへの有効性を認めた(朝日新聞6月12日付「新型コロナの消毒 有効と確認された成分は?使い方は?」)。
アルコールはエタノールが50~80%の水溶液(推薦濃度は70%)。イソプロパノールもエタノールと同等の効果をもっている。燃料用に使われるメタノールは消毒効果があるが、人体に有毒なので使わない。
しかし、アルコール消毒液が入手困難なため、さまざまな消毒薬が使われた。
その後、酒造会社が相次いで消毒用アルコールにも使える高濃度スピリッツを販売したので入手しやすくなった。例えば、私も隠岐酒造の「隠岐誉スピリッツ アルコール分65% 1000円(税込)」を入手した(@samakikaku)。
氾濫した消毒薬のなかに「次亜塩素酸水」があった。
経済産業省が作成、6月9日に改編して発表した「「次亜塩素酸水」等の販売実態について(ファクトシート)」の冒頭には、次の文章が見られる。
〝「次亜塩素酸を主成分とする酸性の溶液」を統一的に評価することとしていますが、その多くが「次亜塩素酸水」名で販売されている実態に鑑み、本資料では、これらを「次亜塩素酸水」と総称しています。ただ、「次亜塩素酸水」は多義的です。〟
一言で言えば、「次亜塩素酸水と呼ばれているものにはいろいろある」
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