血税は意外と簡単に消える
2020年06月18日
新型コロナウイルス対策の持続化給付金の事業を請け負った「一般社団法人サービスデザイン推進協議会」をめぐる疑問の声が止まりません。
決算公告はなく、電話番号は非公表、事務所は先方の指定した日以外に行くと不在。その法人がC評価という判定をうけながら、A評価の競合(しかも低価格を提示)からわずか1日の考査期間で勝ち取った769億円の公共入札。
結局は20億円ゲットしてすぐに電通に業務を投げる。野党の追及では「8次下請けまで確認できた」。委託元の経産省は実態をほとんど把握していなかった……というアレです。
原資は血税。まさに国民の血です。
そんな中で次から次へと疑問が報じられるので、もはやどこをどう突っ込んでよいのか混乱します。ですが、この事例から何を学ぶべきか。そこはハッキリしています。
それは「忘れてしまわない」ということでしょう。厳密に言えば、血税を使う側から「『どうせ忘れるだろう』と見なされないようにする」ということです。
とにかく腰を低くする体で、でも質問や取材にはまっすぐ応えず踏ん張っていれば、芸能人の不倫騒動やらなんやらでうやむやになる……そんな雰囲気を感じたことはありませんか。
正直な話、日々の仕事・育児・介護に追われる中で、「忘れない」は難しいことです。特に血税負担に苦しんでいる人ほど、他のことに気を回す余裕を持つのは大変でしょう。
でも苦しい人ほど、自分の暮らしを守るために、忘れないようにしてほしいと思います。今は昔と違って、SNSなどで意見を発信することができるようになりました。意見まで言えなくてもフォローやリツイートボタンを押すだけでも、風化を避ける一助になります。
今回の10万円一律給付への方向転換など、SNSの力は事態を動かせるようになっていると思います。
では、なぜ「『忘れるだろう』と見なされる」のが恐ろしいことなのか。
そうなると、より血税の使い方が雑になる可能性があるからです。
そもそも、別団体を経由して実態を見えにくくする手法は、さほど斬新とも思えません。今回は一般社団法人というなんとなく公っぽい雰囲気を醸し出してはいますが、本質はさほど変わっていません。
これが結局うやむやになるのであれば、また同様の手法が繰り返されるのではないでしょうか。進化しそうなのは突っ込まれたときの対応だけ。今回は指定日以外に行ったらもぬけの殻という、すがすがしさすら感じる対応でした。
しかし、1人だけでも駐在者を置いておいて、「後はリモートワークで頑張っています!私は質問にお答えできる立場にございません!」と言われたらどうでしょう。
新聞・TV・雑誌には「中抜き20億円」といった見出しが躍りますが、もっと巨額の血税が消えるのを見てきた自分からすると、大事なのはこれからです。
これを機会に
①「中抜き」の本質自体を考えること
②血税の流れが見える仕組みが出来るまで騒ぎ続けること
③この投資の結果にまで関心を持ち続けること
が必要だと考えます。
今回は具体例として、私の原体験から、「忘れる」ことの恐ろしさをお伝えできればと思います。
1兆円を投じて全国の山中に高速道路のようなハイスペック道路を作る「大規模林道」事業です。請負業者の政治献金を洗っている最中に偶然行き当たりました。
当時20代半ばだった私。「なんだかんだで国がやることなんだから、そんな変なことはないだろう」。そう思っていました。
ただ、岩手の山奥ですから、そもそもかなりの期間は雪に覆われて使えません。夏の間も日がな一日車を止めて待っていましたが、通過する車はほぼありませんでした。
そのため、どのようにして「便益(効果)>費用→ OK」となったのか林野庁に取材。返ってきた答えに驚きました。「費用対効果の計算はしたが、その資料がない。でもちゃんと計算したから大丈夫」というのです。しかも計算してから1年未満で捨てたと。
「こんな大きい道路を山中に造るのって5年10年かかりませんか?」
「資料をすぐ捨てたら、終わった後にレビューできなくないですか?」
小学校で先生に尋ねる子供のようです。
林野庁担当者「ちゃんと計算しているから大丈夫なんです!」
私「だから、それが大丈夫だったかを確認するために資料取っておいた方がよくないですか?」
結局、何も得ることが出来ず取材は終わりました。
その時初めて、私の中で、「ひょっとして、税金って実はテキトーに使われているんじゃないか」。そんな思いが芽生えたのです。
大変恥ずかしい話なのですが、血税が消えていく「体感」はこれが初めてでした。
それから私は日々の仕事の隙間時間を作って、彼らが「捨てた」と言っていた資料を探し回ることになりました。
詳しい話は取材源秘匿のため書けないのですが、ある日、その資料を手に入れたのです。
その一部がこれです(区間名は黒塗りしました。その地域の方々が悪いわけではないので)。
費用はざっくりな割に、効果の方は様々な項目が上乗せされているのが分かります。それでも費用に対する効果は、OKラインの1.0をギリギリ越えるレベル。区間によっては「1.01」なんていう離れ業を見せてくれた箇所も。
そうなると、色々書いてある効果はむしろ、「ギリギリでもなんとか1.0を越えさせるため」なのではないか。当時の私にはそう思えてしまいました。
霞が関の取材など初めてだった私は怖がりながらも、自分なりの疑問をぶつけました。例えばこの箇所。
「計算式見ると20年間交通量が増え続けて、その後高止まりするってことですか?」
「交通量の計算の大元をたどっていくと人口らしいですけど、既に人口減少に苦しんでいるこの地方で1.347倍になるって凄くないですか?」
私の頭が悪いのでしょう。よく分からない項目は他にもありました。
スキー場の利用客が増えるという、「これって林業なの?」という箇所やら、「ふれあい機会創出便益」なる項目。
ただ、質問を繰り返しても柳を相手にしているようでした。
そもそも実施主体が官製談合事件で廃止になり、そこの関連団体からの多額の献金絡みで政治家が自殺するという背景のある事業だったのですが……。途中から「俺が変なだけ?」とすら思うように。悩んだ後、東京本社の先輩記者に相談しました。
その結果、計算の中身の是非までは書ききれないものの、「長期間の公共事業で、判断の根拠をすぐに捨てるのはおかしい」ということで1面をゲット。
これをきっかけに国会で大臣が動き、資料保存のルールが改善されました。
この体験は私のその後の記者生活を大きく変えるものとなりました。
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